体験談

    映画『朝が来る』/私たちが養親になるまで。特別養子縁組で幸せを掴んだ家族を取材しました

    公開日:2020.10.17 / 最終更新日:2020.11.27

    映画『朝が来る』/私たちが養親になるまで。特別養子縁組で幸せを掴んだ家族を取材しました

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    いよいよ10月23日に公開になる、特別養子縁組を題材にした映画『朝が来る』。

    カンヌ国際映画祭の「CANNES 2020」レーベルにも選ばれたこの作品、原作は直木賞作家、辻村深月さんによるヒューマンミステリー。監督は日本が世界に誇る名匠・河瀨直美さん、そして主演は永作博美さん。あかほし読者さん必見の感動作です。

    赤ちゃんが欲しい秋』号では妊活メディア「あかほし」ならではの目線で、たっぷりご紹介しています。

    映画『朝が来る』ストーリー

    夫の無精子症が判明し、不妊治療を試みるも、一度は子どもを持つことをあきらめた栗原清和と佐都子の夫婦。ふたりは「特別養子縁組」という制度を知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名づけた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。

    ©2020「朝が来る」Film Partners

    ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名のる女性から、「子どもを返してほしいんです。それがだめならお金をください」という電話がかかってくる。

    当時14歳だったひかりとは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心やさしい少女だった。渦巻く疑問のなか、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。

    いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか──?

    永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子ら実力派俳優が、人間の真実に踏み込む演技で観るものを圧倒する。血のつながりか、魂のつながりか。現代の日本社会がかかえる問題を深く掘り下げ、それでも最後に希望の光を届ける感動のヒューマンドラマが誕生しました。

    小さな命がつなぐ「特別養子縁組」という選択。手に入れたのは、愛ですか? 手放したのは、愛ですか?

    インタビューからわかった特別養子縁組のリアル

    あかほし編集部は、映画『朝が来る』の制作にかかわり、本人役で出演も果たしたTさん夫妻にインタビュー。

    無精子症で妊娠の望みを絶たれ、どん底まで落ちた2人は特別養子縁組によって救われました。2020年7月に2人目の養子を迎え、幸せいっぱいのご家族にこれまでの道のりを伺いました。

    夫:Kさん31歳)

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    妻:Mさん(34歳)

    Tさんご家族の妊活ストーリー

    2014年 結婚。妊活スタート

    2015年 夫の無精子症が判明。手術を受けるも、妊娠はむずかしいと告げられる

    2017年 民間あっせん団体Babyぽけっとに登録

    2018年 特別養子縁組で長女を迎える

    2020年 特別養子縁組で長男を迎える

    「最近2人目の養子を迎え、4人家族になりました。実子を持つことは不可能だと告げられた日には、こんなふうに家族で笑い合える日が来るなんて想像できませんでした」

    映画『朝が来る』は私たち家族の宝物

    ―−−映画にどのようにかかわりましたか。

    私たち夫婦の出会いから不妊による苦悩、特別養子縁組への想い、養子を迎えた現在の心境まで、河瀨監督自らカメラを構えて取材してくださいました。自宅でリラックスした状態でインタビューを受けたので、身構えることなく、自然に話すことができました。

    ―−−河瀨監督の印象はいかがでしたか。

    ご自身も幼少期、実の親から離れ、養子として生きてこられた監督の言葉ひとつひとつが、私たちをあたたかく、力強く包んでくれました。そんな監督に、「血のつながりのない家族の姿」「自分の子を産み育てることのできなかった母の姿」の双方をきれいごとや理想論ではなく、リアルに描いていただけたこと、養親のひとりとしてとてもうれしかったです。

    ―−−実際の映画にも親子で登場されましたが、最初は抵抗がありましたか。

    養親役の永作博美さん、井浦新さんが目にされるドキュメンタリー映像に私たちの取材映像を使っていただきました。私たちの場合、だれかを演じたわけではなく、素のままで率直な想いをお話ししただけなので、特に抵抗はなかったです。娘の顔や名前を出すことについても、不特定多数のかたの目にとまるメリット・デメリットを踏まえたうえで、娘のリアルな表情をそのままお伝えしたいと思いました。

    この作品の一部になれたことを心から誇りに思い、感謝しています。

    ―−−映画の感想を聞かせてください。

    予告編を拝見しただけで涙がこぼれました。私たちも男性不妊だったので、特に栗原夫妻の言葉にならない感情のひとつひとつが実体験と重なり、共感しました。

    娘を授かって親になった今、自分のおなかの中で育て、命をかけて産みたかったという気持ちもありますが、それ以上に実親さんが宿った命を守り、産んでくださっ
    たからこそ、今私たちの目の前にいとしい娘がいるということに心から感謝する気持ちが生まれました。

    映画に出てきた養親・実親・養子もみなそれぞれの立場で、今を一生懸命生きています。一部では、産んでも育てることのできない実母を責める風潮もあると聞きますが、社会で救い、支えていく道を築いていきたいと思います。

    ©2020『朝が来る』Film Partners

    自分には生殖機能がない。自信を失い苦しんだ日々

    ―−−男性不妊だとわかったのはいつごろですか。

    結婚後すぐに排卵検査薬を使って妊活を始めましたが授からず、1日でも早くわが子を抱きたいと、婦人科の門をくぐり、夫婦そろて不妊検査を受けました。そこで
    「ご主人の精液には精子が見当たりません」と告げられました。あのときはショックを受ける以前に、事実を頭で受け入れ、理解することができませんでした。

    ―−−治療はされましたか。

    性不妊専門のクリニックに転院し、くわしい検査を受けた結果、非閉塞性無精子症であることがわかり、Micro−TESE(顕微鏡下精巣内精子採取)をすすめられました。男性ならだれしも局部にメスを入れることには強い抵抗があると思いますが、夫は二つ返事で手術を受けることを決めてくれました。

    しかし結果は精子が全く見つからず、医師からは実子を妊娠・出産することは不可能であると、はっきり告げられました。

    ―−−そのことをKさん(夫)はどのように受け止められましたか。

    数パーセントの可能性を信じて気力で頑張ってきた私たちにとって、治療法がないという現実を受け入れることは何よりもつらく、苦しい期間でした。

    特に私は自分に生殖機能がない=男として存在を否定されたような喪失感、情けなさ、妻への罪悪感。もともと保育士を夢見たこともあるほど大の子ども好きなので、実子を授かれないショックはとても大きかったです。

    心がつぶれそうなときは、思わず妻に「お願いやから離婚して、別の人と幸せになってくれ」と、口にしたこともありました。

    ―−−Mさん(妻)はいかがでしたか。

    精子ドナーという選択肢もあるなか、自分は産める体なのに、産まない決断をするには、長い時間がかかりました。実子をあきらめきれないというより、妊娠・出産
    を経験して母になりたかった。しかし精子ドナーを使えば、私と子どもは血がつながり、夫だけはつながらないことになる。それは夫には受け入れがたく、平行線の話し合いが続きました。

    そんななかで私も徐々に、ドナーによる妊娠よりも、すでにだれかのおなかに宿り、産まれてくる命、父母を必要としてくれる命があるなら、その子を愛したいと思えるようになりました。

    ―−−つまり、特別養子縁組を前向きに考えようと。

    はい。私から特別養子縁組を提案したとき、夫は血のつながらない子どもを自分の子として愛せるのか悩み、後ろ向きの反応でした

    でも民間あっせん団体、Babyぽけっとの説明会に参加して、実際に特別養子縁組をされたご家族とお会いしたとき、幸せそうに笑い合う姿が実の親子と何も変わらないこと、不思議と親子のお顔が似ていることに感動しました。やっと不妊のつらさを乗り越えて、明るい未来に一歩踏み出せた瞬間でした。

    Babyぽけっとに特別養子縁組をお願いすると決めてから、申し込み条件である婚姻年数を満たすまで待たなければいけませんでしたが、その年月が私たちには必然であったと感じます。

    特別養子縁組で救われたのは私たちでした。

    長女のKちゃんと7月に迎えた長男くん
    長女Kちゃんと7月に迎えた長男くん

    ―−−はじめて娘さんと対面されたときのことを教えてください。

    抱っこして、小さくやわらかい手足にふれたとき、「やっと会えた。すべてはこの子に会うためだったんだ」と思いました。今まで私たち夫婦に起きたつらく悲しい出来事も、むだなことは何もなかったんだと、心から感じました。

    特別養子縁組は子どものための制度ですが、救われたのは私たちでした。こんなにも幸せな人生を与えてくれた娘には感謝しかありません。

    ―−−産みの母親には会われましたか。

    会ったことはありませんが、Babyぽけっとを通じて、毎年、子どもの成長アルバムを手紙を添えて送っています。娘にも、赤ちゃんのときからありのままの真実を話し、実親さんの写真も見せています。

    ―−−周囲には養子であることを告知されていますか。

    隠すことは何もないので、普通に伝えています。私たちがあまりにもあっけらかんと言うので、みなさん一瞬びっくりされます(笑)。でもその後は「パパとママのところに来てよかったね」「すてきだね」と、明るく娘に声をかけてくれます。

    時には「自分の子でも子育ては大変なのに、他人の子を育ててえらいね」と言われることもあります。価値観は人それぞれ。ただ、私たちにとっては、養子縁組で家族になったのは経緯でしかなく、娘は私たちのいとしいわが子で、実の親子と何も変わりません。娘の命を守り、産んでくださった実親さんに感謝をしながら、子育てをめいっぱい楽しませてもらっています。

    私たちが公表することで、特別養子縁組が社会的に特別ではなく、当たり前の家族の姿として広く認知され、望まない妊娠で失われる命や悲しすぎる事件が少しでも減り、また不妊に悩むご夫婦の明るい未来の選択につながればいいなと願っています。

    ―−−不妊に悩んでいたり、養子を迎えようか悩んでいるかたへ伝えたいことはありますか。

    妊婦さんや幸せそうな親子連れの姿、あるいは幼児虐待のニュースを目にすると、「なぜ私には赤ちゃんがこないの?」「私はお母さんにはなれないの?」と真っ暗闇に落ちることがありました。その闇は厄介で、なかなか抜けることができません。友人の妊娠報告を喜べない自分を嫌悪したりもしました。

    不妊治療を続ける勇気、休む勇気、やめる勇気。何をどのタイミングで選択するかはご夫婦それぞれです。

    ただ、やめる勇気はけっしてマイナスではないことを知ってほしいです。

    夫婦ふたりの人生も大正解! 産めなくても父と母になり、わが子を愛することだってできます!「命」が生まれる奇跡をどんな形でも受け入れることができれば、きっと心から幸せな未来につながります。

    言葉では言い尽くせない想いに夫婦で必死に向き合い、同じ未来を求め、歩んだからこそ言えます。今、心から幸せです。産んでくれて、生まれてきてくれて、つないでくれて、ありがとう。愛しています。生まれてくる命ひとつひとつが輝く未来でありますように!

    映画『朝が来る』

    2020年10月23日(金)全国公開
    監督・脚本・撮影: 河瀨直美
    永作博美 井浦新 蒔田彩珠 浅田美代子
    原作:辻村深月『朝が来る』(文春文庫)
    ©2020『朝が来る』Film Partners
    http://asagakuru-movie.jp/

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