『不妊治療』を始めるときに知っておきたい基礎知識|妊活webマガジン 赤ちゃんが欲しい(あかほし)
不妊治療
晩婚化にともない、不妊治療を受けるカップルが急増しています。不妊の原因、治療の種類、使う薬、治療以外に心がけたい生活習慣、お金のことなど、不妊治療の基本を詳しく解説します。
日本産科婦人科学会によると「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性生活を送っているにもかかわらず、1年たっても妊娠しない状態をいいます。
ただし妊娠のしやすさは年齢に大きく関係するため、高齢になるほど1年よりも早い段階で「不妊」と判断することもあります。
通常の夫婦生活を送れば、2年以内に90%のカップルが妊娠します。つまり残りの10%=10組に1組は、自然妊娠できる可能性が低いということになり、医学的治療を必要とする「不妊症」と考えられます。
国立社会保障・人口問題研究所が2015年に行った調査によれば、5335組の夫婦のうち「不妊を心配したことがある」、または「現在心配している」夫婦の割合は35%。実に3組に1組の夫婦が不妊の可能性について考えているという結果も出ています。
通常の夫婦生活をもっているにもかかわらず、1年以上妊娠しないときは不妊症を疑います。
ただし、妊娠率は年齢によって大きく変わります。また、月経不順などがある場合は、1年を待たずに治療をスタートしたほうがいいことも。妊娠できる期間は限られているので、気になるトラブルがある場合は、早めに医師に相談しましょう。
□妻の年齢が35才以上
35才以降は卵子の老化が急激に進むため、早めに行動することが望まれます。自己流タイミング法に3回トライしても妊娠しない場合は、不妊検査を受けましょう。
□月経トラブルがある
月経痛が重い、不正出血がある、月経周期が乱れている、周期が短すぎる、または長すぎるなど、月経に関する気がかりがある場合は一度診察を。ホルモンの分泌異常や無排卵月経などが隠れている場合があります。
□子宮内膜症、子宮筋腫と診断された
子宮内膜症や子宮筋腫は、不妊の大きな原因となります。治療に使う薬は服用中に妊娠できないものも。かかりつけ医に妊娠の希望を伝え、治療にかかりましょう。
□性病にかかったことがある
クラミジア性感染症、淋病、トリコモナス腟炎などの性感染症は、炎症によって卵管や精管を詰まらせるなど、男女ともに不妊の原因となることがあります。
□持病がある
特に糖尿病やバセドー病の人は妊娠しづらかったり、服用している薬の副作用で妊娠に影響が出ることがあります。
不妊治療を希望する場合は、不妊治療専門クリニック、産婦人科、不妊外来を受診します。
不妊治療が受けられる病院を選ぶ際、以下の3つのポイントがあります。
それぞれについて見ていきましょう。
不妊治療を受けられる病院には「不妊治療専門クリニック」「産婦人科(個人病院)」「総合病院・大学病院」の3つのタイプがあります。
今はインターネットでいろいろな口コミ情報が出ていますが、見学会や相談会、セミナーなどを開催している病院も多いので、実際に参加し、病院や医師、スタッフの雰囲気、医師の医療に対する情熱などを見てから決めるのが一番です。
●不妊治療専門クリニック
〈メリット〉
・基本、不妊治療の患者のみを受け入れる
・体外受精・顕微授精といった高度生殖医療を受けられる
・培養士やカウンセラーなどの態勢が充実
〈デメリット〉
・地域によって数が少ない
・人気クリニックは待ち時間が長いことも
・自由診療の治療が多く治療費の負担が大きい
・出産のための病院探しが必要
●婦人科・産婦人科(個人産院)
〈メリット〉
・自宅や職場の近くなど、便利な場所に見つけやすい
・毎回同じ医師がみる可能性が高い
・出産まで続けてみてもらえる
〈デメリット〉
・体外受精・顕微授精は行っていないため、希望する場合は転院が必要
・待合室で妊婦さんと同じことが多い
・不妊治療の知識や経験に差がある
●総合病院・大学病院
〈メリット〉
・各都道府県に必ずある
・最新設備など医療設備が充実している
・産科があれば出産までみてもらえる
・トラブルの際、他科との連携ができる
〈デメリット〉
・待ち時間が長いことが多い
・診療時間が短めなことが多い
・毎回担当医が変わることもある
・研修医の立ち会いがあることもある
最も大事なのは、医師の不妊治療の知識と技術力の高さです。よりよい医療を受けられるところを見つけましょう。
治療の内容にもよりますが、不妊治療が始まると月に数回以上、多い場合は20日以上通うことになります。治療が始まると平均で約1年ほど通院するケースが多いので、その期間、無理なく通えるエリアで選ぶのがポイントです。
とくに仕事をしている女性は、仕事前の朝か、仕事終わりの夜に行くことになるので、自宅と職場を結んだライン上にある病院だと便利です。夫の職場との距離、土日診療の有無もチェックしておきましょう。
待ち時間が長いことを心配する人も多いですが、その分しっかり診てもらえると考えることもできます。
休み明けの月曜午前は込みやすく、平日の午後4時ごろは比較的空いているなど、時間帯にとっても差があるので調べておくといいでしょう。
Q病院選びで重視したことは
1位:病院・医師の評判
2位:通いやすさ
3位:病院の雰囲気
病院・医師の評判を重視したというコメントが一番多い結果に。「厳しい先生だったけど、体育会系の私には合っていた」「治療はつらかったけど、病院自体が新しく、内装もキレイで気分がよかった」など、先生との相性や病院の雰囲気を重視するという声も。
Qどのタイプの病院に通った?
1位:不妊治療専門クリニック〈50%〉
2位:産婦人科(個人病院)〈37%〉
3位:総合病院・大学病院〈13%〉
半分が不妊治療専門クリニックと回答。「最初は家の近くの産婦人科に通っていたけど、1年たっても妊娠しなかったので思い切って転院」「体外受精をすすめられて」など、産婦人科から転院した人が多い結果に。
Qクリニック情報はどこで見つけた?
1位:ネット〈62%〉
2位:知人からの口コミ〈20%〉
3位:本・雑誌〈8%〉
「気軽に検索できるから」という理由でネットが約6割。とくに「病院のHP」や「不妊治療サイト」を参考にしている人が多いです。5人に1人は「不妊治療をしていた友人・知人に集会してもらった」という結果に。
不妊治療は不妊の原因を探るところから始まります。子宮、卵管、ホルモンの分泌状態などを各検査で詳しくみていきます。この検査を「不妊スクリーニング検査」といいます。
月経の周期に合わせて行う検査もあるため、初診からからすべての検査が終了するまでの目安は1〜3カ月です。
月経周期や状態、過去の病気や手術歴、不妊治療経験の有無など、問診票に記入した情報をもとに、医師が質問をします。基礎体温表をつけていれば持参しましょう。
月経周期、排卵の有無、高温期の長さ、ホルモンの状態などがわかります。
内診台の上で外陰部の視診、触診、さらに膣鏡を使っての膣内の状態確認を行います。
子宮や卵巣の内部は超音波で検査。細い管型のプローブを入れ、モニターで映像を診る検査です。子宮筋腫や卵巣の腫瘍、多嚢胞性卵胞症候群などの病気やトラブルが隠れていないかをチェックします。
治療中も卵胞の発育状態や排卵時期の予測などで、よく行われる検査です。
採血して妊娠や排卵に関するホルモンの分泌を調べます。
検査は低温期、排卵期、高温期の月経周期に合わせて行います。ホルモンの基礎値のほか、多嚢胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症、黄体機能不全の有無なども判断できます。
血液検査で行います。潜在性甲状腺機能低下症の場合、流産や早産のリスクが高くなり、胎児の発育にも影響があるとされます。
甲状腺に異常がある場合は、薬によって甲状腺刺激ホルモン(TSH)値を管理します。
クラミジア感染症について調べる検査です。採血による抗体検査、または内診による検査で、過去に感染したことはないか、現在、感染していないかを調べます。クラミジアによる炎症で卵管がつまると、不妊の原因になるとされています。
排卵前の頸管粘液を採取し、量や色を確認します。子宮頸管から分泌される粘液には精子を子宮内に導く働きがあります。排卵期前後の数日間は分泌量がふえるのが特徴。不足すると、精子が子宮内に入りにくく、不妊の原因になります。
子宮頸管からカテーテルを入れて子宮内に卵管通気用の器具を通し、卵管に炭酸ガスや生理食塩水を注入します。圧力の変化を調べることで、卵管の状態がチェックできます。
卵管が通っている場合は、炭酸ガスや生理食塩水は腹腔内に流れ出て圧力は一定ですが、卵管が閉塞している場合は圧力が上がります。
カテーテルを使って膣から子宮内に造影剤を注入し、X線で撮影する検査です。子宮の形状や、卵管が狭い、詰まっているなど、精子や受精卵の通過性をさまたげる問題の有無がわかります。
軽度の詰まりであれば、検査によって解消されて妊娠しやすくなることも。
関連リンク:『妊活ドック』最新・不妊症検査
WHO(世界保健機関)の調査によると、女性にのみ原因があるケースが41%、男女両方に原因がある場合が24%、男性のみに原因がある場合が24%、原因不明の不妊が11%。男性のみ、男女両方を合わせると48%になります。
つまり「不妊の原因の半分は男性にある」ということです。
もし男性側に原因があるにもかかわらず、検査を受けなかったとしたら、当然、不妊の原因がわからないまま治療法を探っていかなければなりません。
時間もお金もムダになってしまううえ、治療に一人で向き合わなければならない女性の精神的負担も大きくなってしまいます。
治療を効率よく進めるためには、男性の検査は必須です。
婦人科、不妊治療専門クリニック、男性不妊も扱う泌尿器科で行えます。
女性は時間をかけてさまざまな検査をしますが、男性の検査はほぼ1日で終了します。男性の検査のステップをみていきましょう。
問診票に沿って医師の質問に答えていきます。一般的によく聞かれるのは、1カ月の性交回数、射精の状態、過去の既往歴、喫煙ペースなどです。
ズボンを脱いで触診、視診を受けます。数珠状のオーキドメーターという計測器で、左右の精巣(睾丸)の大きさとかたさを確認。はれや痛み、精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)がないかもチェックします。
精巣のまわりにできるこぶで、血流悪化や精巣の温度上昇を起こすため、男性不妊の原因となります。
2〜7日ほど禁欲し、病院内の採精室でマスターべーションによって精液を採取します。病院でとるのが望ましいですが、施設によっては検査の朝、自宅で専用容器に精液を採取して持参することも可能です。持参ルールを事前に確認しましょう。
精液検査で重視されるのは、精液のなかに精子があるか、ないかです。
精子が少ない=乏精子症、まったくない=無精子症など、精液検査に問題があった場合は、泌尿器科でくわしい検査をします。
男性の精液の状態は日によって変化するため、検査結果が悪かった場合も、再検査では問題ないとされることもあります。逆に、一度よくても次回は悪い場合もあるので、一度の検査で安心は禁物です。
関連リンク:精液が出ていても精子がいないこともある!妊活男子の精液検査ルポ
妊娠のメカニズムは複雑なため、不妊を引き起こす原因にもさまざまなものが考えられます。女性、男性、それぞれの不妊原因をチェックしましょう。
子宮の形状、子宮内膜の状態、卵管の詰まり、ホルモンの分泌異常など、不妊原因はさまざまです。とくに主に月経痛、月経不順、不正出血など、月経トラブルがある人は早めに診察を受けましょう。
子宮頸管は子宮の入り口と膣をつなぐ細い管です。
頸管粘液の分泌量が少ないと、精子が子宮に入りにくくなってしまいます。
卵巣にトラブルがあると卵子の質が低下したり、卵巣機能が低下するおそれが。卵管が狭くなったり詰まったりすると、精子と出会うことができなかったり、受精卵を子宮に運ぶことができなくなります。
・子宮内膜症
子宮の内側だけに存在するはずの子宮内膜組織が、腹腔内や卵巣、卵管などで増殖する病気です。月経のたびに出血をくり返すことで、周囲と癒着し、かたくなることもあります。
卵巣の中に子宮内膜症ができると「チョコレート嚢胞」といわれる状態になり、卵巣機能が低下するおそれも。20〜40代の女性に急増しています。
関連リンク:『子宮内膜症』はどんなトラブル?知っておきたい症状や治療法
・卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)
卵巣の一部にできた袋状の嚢腫に液体がたまる病気です。嚢腫が小さいうちは自覚症状はありません。
大きくなると卵巣内で動いて下腹部痛を生じるほか、卵管から手のように出ている卵管采が卵子をピックアップしにくくなってしまうなど、妊娠のさまたげになります。効果的な薬がないため、除去する場合は手術になります。
関連リンク:『卵巣嚢腫』とは?気になる症状や原因、治療の基礎知識
卵子が育たない、排卵しにくい、排卵しないなどのトラブルです。ストレスや無理なダイエットによるホルモンバランスの乱れが原因となることもあります。
・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
卵巣内で卵胞が成熟せず、定期的な排卵が起こらない、排卵障害のひとつです。超音波検査をすると、卵巣のなかに多数の卵胞が詰まって見えるのが特徴です。
卵子の数は多いので、排卵誘発剤などを使い、上手につきあいながら治療を進めれば妊娠は可能です。
関連リンク:多嚢胞性卵巣症候群で妊娠する方法
子宮筋腫や子宮奇形などにより、受精卵が子宮に着床しづらい場合です。一度着床したものの、すぐに流産してしまうこともあります。
・子宮筋腫
子宮の筋肉の中にできる良性の腫瘍です。子宮のトラブルの中で最も多くみられます。
筋腫のできた位置によっては受精卵の着床をさまたげる可能性があり、手術が検討されます。
小さいもの、妊娠への影響が少ないと考えられるものは、手術をしないで自然妊娠を試みることも。
・子宮ポリープ
子宮内膜からとびだした突起状のいぼです。大きいものは着床の妨げになるので手術でとります。
数がたくさんある場合は、ホルモン剤で子宮内膜の状態をととのえながら、ポリープが消えるかどうかを確認していきます。
関連リンク:【妊娠超初期の流産・不育症】何が原因? 流産後の妊娠率は? 経験者の体験談も!
男性不妊の主な原因は、精子を正常につくることのできない造精機能障害です。
そのほか勃起障害、射精障害も不妊の原因となります。
・無精子症
精液中に精子が一匹もいない状態。精子の通り道がふさがっている「閉塞性」と、ふさがっていない「非閉塞性」とがあります。
閉塞性の場合は睾丸から直接精子を採取し、妊娠の可能性があります。非閉塞性でも、約半数は手術で精子をとることができます。
・乏精子症
精液中の精子の数が少ない状態。精液1mlあたりの精子数が1500万未満の場合に乏精子症と診断されます。
ホルモン療法や漢方などの治療法があります。
・精子無力症
精子の数は正常にあるものの、精子の運動率が悪く、前に進む力が弱い状態です。
運動率が40%未満の場合に診断されます。
性行為のときに勃起できなかったり、勃起が継続しないことです。おもに緊張やストレス、加齢が原因です。
血管や神経、ホルモンのトラブルで起こることもあります。
・射精障害
勃起はするものの射精はできないトラブルです。最も多いのが膣内で射精できない「膣内射精障害」です。
・早漏
性交時、射精が早すぎるトラブルです。ストレスや不安などが原因と考えられています。
・遅漏
性交時、射精までに過度に時間がかかるトラブルです。刺激の強い自慰行為や、薬、アルコール、ストレス、疲労などが原因と考えられています。
・逆行性射精
精液が膀胱内に逆流してしまうトラブルです。射精時に閉じているはずの内尿道口が、開いたままになっていることが原因です。
初期の検査やフーナーテストでとくに問題が見つからないにも関わらず妊娠しない場合は、「機能性不妊」と診断されます。
性交後に女性の子宮頸管粘液を採取し、運動精子がどのくらいいるかをみる検査です。保険適応で約500円で行えます。
排卵された卵子が卵管のなかに取り込まれないため、精子と卵子が出会うことができず、受精できない状態です。
子宮内膜症は不妊症の大きな原因のひとつ。軽度の場合は、検査でも発見できないことが少なくありませんが、不妊の原因になる、と言われています。
卵管は完全に詰まっていないものの、軽度の癒着などで働きが悪くなっていて卵子をピックアップできない状態です。
精子と卵子が出会って受精が起こり、はじめて妊娠が成立します。なんらかの原因によって受精がうまくできない状態です。
老化や代謝不良、黄体機能不全などで卵子の質が落ちていると、自然妊娠しにくくなります。
ホルモンの異常によって起こる内分泌疾患の総称です。ホルモンの量の異常によって、妊娠しづらくなります。
精子をつくる機能に問題があるため、精子をうまくつくれない状態です。半分以上は原因不明といわれています。
免疫とは、自分の体を異物から守るための防衛機能。これが正常に働かなくなることは、不妊の原因のひとつになると考えられています。
妊娠の確率は、年齢とともに下がります。そのため不妊治療のはじめどきも、年代によって変わります。
女性の年齢でいちばん妊娠しやすいのは22〜23才といわれます。
月経トラブルなどがなければ、1年ほど自己流のタイミングを試してみましょう。
妊娠しない場合は夫婦で検査を受けて。
卵子の質が少しずつ下がりはじめ、数も減っていきます。子宮内膜症やポリープ、子宮筋腫もふえ始める年代。
自己流のタイミングを3〜6回ほど試して妊娠しないときには、まずは検査を受けてみましょう。
35才以降は、卵子の老化が急激に進みます。妊娠に不可欠なエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモン分泌が減少し、卵巣機能の低下も顕著に。
自己流のタイミングに3回程度トライして妊娠しない場合は、早めに検査を。
子宮と卵巣の機能低下が進み、着床しにくくなります。妊娠のタイムリミットが迫っていることを意識し、赤ちゃんが欲しいと思ったらすぐに不妊専門クリニックを受診しましょう。
不妊治療は次の3つのステップに分けられます。
子宮内膜の状態や卵胞の大きさを確認できる超音波検査、ホルモン値などがわかる血液検査などの検査結果をもとに、正確な排卵日を特定します。
医師から排卵日を伝えられたら、排卵日前後にセックスをしてタイミングをはかります。
タイミング指導と並行して、ホルモンバランスをととのえる薬を服用したり、多嚢胞性卵巣症候群や無排卵月経などの治療を行うこともあります。
排卵のタイミングに合わせて精子を子宮に注入します。
卵子と出会うための移動距離を短くすることで、受精の可能性が高まります。受精や着床などの流れは、自然妊娠と同じです。
・頸管粘液が少ない
・射精障害や勃起障害がある
・乏精子症や精子無力症
・精液が少ない乏精液症などの問題がある
・フーナーテストの結果がよくなかった
・タイミング法で妊娠しなかった
人工授精(IUI:Intrauterine insemination)のうち
・夫の精子を注入するものを「AIH(Articial Insemination with Husband’s Semen)」
・夫以外から提供された精子を使う非配偶者間人工授精を「AID(Artificial Insemination by Donors)」
といいます。
体外受精(IVF)や顕微受精(ICSI/イクシー)は、生殖補助技術(ART/アート)と呼ばれる最先端の治療です。
体外受精は、卵子と精子をそれぞれに取り出して人工的に受精させ、育った受精卵を体内に戻す方法です。
顕微授精は、卵子1個に精子1個を直接注入する方法です。顕微授精は①精子の数が極端に少ない男性不妊症 ②受精障害で体外受精では受精しない場合に行います。
タイミング法を6回以上行なって妊娠しなければ、人工授精へステップアップ。人工授精を5〜6回行なって妊娠しなければ、体外受精(顕微授精)へステップアップというのが、一般的な目安とされています。
ただし不妊治療は、夫婦の体の状態、不妊原因、資金面を含めた治療に対する考え方によって変わるため、治療の進め方は夫婦ごとに異なります。
ですから、検査結果によっては体外受精(顕微授精)からスタートすることもありえます。
また、ステップアップだけでなく、体外受精にトライしたのちにタイミング法や人工授精にステップダウンしたり、体外受精で移植できない周期にはタイミング法にトライするといったステップミックスという方法もあります。
大切なのは、医師の説明をしっかり聞きながら、納得できる治療を選ぶことです。自分に合った治療を受けるためには、積極的な姿勢が必要です。
不妊治療の目的は、なるべく早く妊娠・出産すること。「薬はなるべく使いたくない」「副作用が心配」という声もありますが、不妊治療の薬は、限られた時間を有効に使って妊娠出産に結びつけるためのものです。
薬の役割や注意すべき副作用を知って、納得して治療を受けましょう。
不妊治療で最も多く使われる薬です。
卵胞を育てる働きをするFSH(卵胞刺激ホルモン)、排卵を促す作用をするLH(黄体ホルモン)の2つのホルモンの働きを補います。
両方とも脳下垂体から分泌されるホルモンで、不足したりバランスが崩れたりすると、排卵障害や月経不順の原因になります。
また、複数の卵胞を育てて妊娠の確率を上げるために、排卵誘発剤を使うこともあります。
脳に働きかける飲み薬と、卵巣に直接働きかける注射薬があります。
注射薬は作用が強く、卵巣過剰刺激症候群などの副作用のリスクも。検査の数値をみながら、注射の種類や量を調整します。
よく使われる排卵誘発剤をまとめました。
飲み薬。排卵誘発作用が高く、タイミング法、人工授精から体外受精、顕微受精まで使用されます。
粘液の分泌が少なくなる、子宮内膜が薄くなるといった副作用のほか、頭痛や目のかすみを訴える人も。運転する人は注意が必要です。
飲み薬。クロミフェン製剤よりも排卵誘発作用は弱め。無排卵や排卵しづらい人の治療、タイミング法、人工授精などに用いられます。副作用は少なく、頭痛、悪心など。
注射薬。クロミフェン製剤で排卵しない場合、多くの卵胞を発育させたい場合に使用。FSHとLHの両方を含みます。
筋肉注射で、おしりや上腕に注射します。卵巣過剰刺激症候群が起こることも。
注射薬。FSH(卵胞刺激ホルモン)のかわりとなって働き、卵胞の成長を助けます。
lh(黄体ホルモン)は含まず、卵巣のはれやアレルギーを起こすリスクが低いのが特徴。ペン型で自己注射が可能です。
注射薬。HMG製剤に含まれるLHの値を限りなく少なくしたもの。卵巣を刺激し、卵子を育てる効果があります。卵巣過剰刺激症候群を引き起こすリスクがあります。
卵胞が成熟すると、卵胞から分泌される卵胞ホルモン「エストロゲン」の量が増えます。これが合図となって、排卵の引き金となるLH(黄体化ホルモン)が急上昇します。これをLHサージといいます。
自力ではLHサージが起こりにくい場合、人工授精や体外受精の採卵で排卵のタイミングをコントロールしたい場合は、排卵を起こす薬を使います。
点鼻薬。使用後36時間程度で排卵します。長期で使うと、FSH、LHの分泌を抑え、排卵を抑制するというまったく反対の働きに。医師から指示のあった回数を、鼻の穴にスプレーします。
注射薬。卵胞を成熟させたところで使用。約40時間後に排卵が起こります。
排卵誘発剤によって卵胞がたくさん育っているときに使用すると、卵巣過剰刺激症候群を起こすリスクがあります。
体外受精や顕微受精では、排卵直前の成熟した卵を採卵する必要があります。
自然の状態でそのタイミングを見極めるのは非常に困難なため、採卵の前に排卵しないよう、排卵時期をコントロールする薬を使います。
注射薬。排卵を促すLHを抑え、排卵を止める作用があります。
GnRHアゴニスト製剤のように長期間使用する必要がなく、卵巣過剰刺激のリスクが少ないのが特徴。
卵胞が直径14mmくらいまで成長したところから開始し、3日くらいの使用が一般的。
黄体ホルモン(プロゲステロン)は、排卵後につくられる黄体から分泌されて高温期をつくり、子宮内膜を厚くする女性ホルモンです。
黄体ホルモンが少ないと、受精卵が着床できないため、タイミング法や人工授精、体外受精の排卵後に黄体ホルモンを補充することがあります。
また、排卵誘発周期に使うと、排卵を抑える効果もあります。卵巣刺激の初期から黄体ホルモン剤を使い、排卵をストップして採卵する方法も広まっています。
飲み薬。タイミング法や人工授精では排卵後、体外受精では採卵後に、子宮内膜の厚みややわらかさをととのえるために使用します。胚移植の際にも使われます。
膣剤。体外受精の採卵後の黄体ホルモン補充、胚移植の際のホルモン補充療法に用いられる膣座薬です。
眠気やめまいを感じることも。薬の種類によって、血栓障害や卵巣過剰刺激症候群、不正出血の副作用にも注意が必要です。
注射薬。体外受精の採卵後、黄体ホルモン補充の目的で使われる筋肉注射です。
月経周期が短い、低温期が長いなどの「黄体機能不全」の治療にも有効です。
関連リンク:黄体ホルモンが少ない?『黄体機能不全』をどこよりも詳しく解説
凍結した胚を子宮に戻すときには、人工的に子宮内膜を厚くする「ホルモン補充周期」が多く用いられています。
卵胞ホルモン剤は、黄体ホルモン剤とともに内膜を厚くするために使われます。
飲み薬。卵胞や子宮内膜を育てる働きをする卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌不足を補います。
卵巣機能の改善、体外受精の妊娠率をあげる目的でも使われます。副作用は、体重増加やむくみなどです。
貼付剤。下腹部に貼って使用するヒカテープ。皮膚から卵胞ホルモンの成分が直接吸収されます。
通常2日ごとに貼りかえます。皮膚がかぶれることもあるので、少しずつ貼る位置を変えて使用します。
このほかにも、治療内容や体の状態に合わせて、薬が処方されることもあります。
飲み薬。高プロラクチン血症の改善に使います。
飲み薬。流産予防に使います。
飲み薬。子宮内膜症の増殖を止めるために塚ます。
飲み薬。月経周期をととのえるために使います。
不妊治療の多くは保険が適用されない自由診療のため、高額になりがちです。
1周期あたりの治療にかかるおおよその目安と、不妊治療をして妊娠した方を対象にしたアンケート(赤ちゃんが欲しい編集部実施)による、治療にかかった平均金額をまとめました。
・1周期の平均金額:約3000円〜1万5000円
・治療内容:超音波検査、血液検査、排卵誘発剤の服用など
・治療の平均総額:14万4000円
(平均治療期間:1年4カ月)
・1周期の平均金額:約1万〜2万円
・治療内容:超音波検査、尿検査、人工授精、排卵後チェック、黄体ホルモン補充など
・治療の平均総額:31万円
(平均治療期間:1年3カ月)
・1周期の平均金額:約30万〜50万円
・治療内容:卵巣刺激、採卵・採精、体外受精、胚培養、胚移植、黄体ホルモン補充など
・治療の平均総額:109万6000円
(平均治療期間:2年4カ月)
・1周期の平均金額:約40万〜50万円
・治療内容:卵巣刺激、採卵・採精、顕微授精、胚培養、胚移植、黄体ホルモン補充など
・治療の平均総額:173万8000円
(平均治療期間:3年)
治療費は医療費控除の対象になるので、確定申告で税金が戻ってくることもあります。
また助成金制度もしっかり利用して、できるだけ負担を減らす工夫をしましょう。
不妊治療の多くが保険適用外なのは、国の「不妊は病気ではない」という考え方をもとに適用の範囲を決めているからです。
さらに、健康保険は予防医学的な検査には使えません。人間ドックの検査が自費診療なのと同様、不妊の原因を調べるためのスクリーニング検査も保険適用外となります。
ただ、検査によって卵管閉塞や乏精子症、クラミジア感染症など、不妊の原因がみつかった場合は、その診療には保険が適用されます。そのため、同じ超音波検査でも、ある人には保険が適用され、別の日は自費診療になる、ということが起こり得ます。
高額の治療費がかかる不妊治療の費用の一部を国や自治体が補助をする「特定不妊治療費女性制度」があります。
国の助成金以外にも、地方自治体独自で助成金制度を設けている場合もあります。住んでいる地域にはどんな助成があるか、自治体のホームページなどで確認しましょう。
受給者の条件は以下の2点です。
・特定不妊治療以外の治療によっては妊娠の見込みがないか、極めて少ないと医師が診断している
・治療期間の初日に妻の年齢が43才未満である
高度生殖医療の体外受精、顕微授精が対象です。
夫婦合算の所得額が730万円未満の場合に適応になります。
所得額とは、たとえば給与所得者の場合、年収から給与所得控除などの各種控除を差し引いたあとの金額です。
特定不妊治療にかかった費用に対し、1回の治療につき15万円、または7.5万円が助成されます。
1回の治療とは、採卵準備の投薬開始から、体外受精・顕微授精1回を終えるまでの治療の過程を指します。凍結胚移植も1回と数えます。
初回の治療に限り30万円まで助成されます。ただし、採卵を伴わない凍結胚移植は除きます。
治療のステージと助成金額は下記のように決められています。
・新鮮胚移植を実施⇒⇒⇒15万円
・凍結胚移植を実施⇒⇒⇒15万円
・以前に凍結した胚を解凍して胚移植を実施⇒⇒⇒7.5万円
・体調不良により移植のめどが立たず治療終了⇒⇒⇒15万円
・受精できず、または胚の分割停止、変性、多精子受精などの異常受精により中止⇒⇒⇒15万円
・採卵した卵が得られない、または状態のよい卵が得られないため中止⇒⇒⇒7.5万円
・卵胞が発育しない、または排卵終了のため中止⇒⇒⇒対象外
・採卵準備中、体調不良等により治療中止⇒⇒⇒対象外
採卵準備前に男性不妊治療を行ったものの精子が得られなかった、または状態のよい精子が得られないために治療を中止した場合も助成の対象です。
2019年度から男性不妊も助成の対象となりました。
体外受精および顕微授精の過程で行われる「精巣内精子生検採取法(TESE)」「精巣上体内精子吸引採取法(MESA)」「経皮的精巣上体内精子吸引採取法(PESA)」、または「精巣内精子吸引採取法(TESA)」の費用の一部が助成されます。
妻の年齢によって助成を受けられる回数が異なります。
初めてこの助成を受けたときの治療開始時点で、妻の年齢が40才未満の夫婦は通算6回まで、妻の年齢が40才以上の夫婦は通算3回までで、いずれも43才になるまで受けることができます。
助成を受けるためには指定された医療機関で治療を受ける必要があります。
医療機関は厚生労働省のHPから確認できます⇒⇒⇒不妊に悩む方への特定治療支援事業 指定医療機関一覧
申請方法は都道府県によって異なりますが、多くは自治体のホームページから申請書をダウンロードし、窓口に持参、あるいは郵送することで手続きをします。
申請者・配偶者が記入するものと、指定医療機関が記入するものがあります。
申請書のほかにも
・住民票の写し
・戸籍藤本
・申請者と配偶者のそれぞれの所得関係書類(住民税課税証明書、住民税決定通知書、確定申告書、源泉徴収票)
・指定医療機関の領収書のコピー
などが必要となります。
夫が助成の対象となる手術を行なった場合は
・精巣内精子生検採取法等受診等証明書
・治療の領収書のコピー
も必要です。
東京都の場合は、申請を受けてから約2カ月後に審査結果の通知が送られ、その約1カ月後に指定された口座に助成金の振込が行われます。
申請が多い時期は、結果の通知までの期間が長くなることもあります。
申請期限は、助成の対象となる「1回の特定の不妊治療が終了した日」を基準に考えます。
治療の終了した日とは、妊娠の確認の日(妊娠の有無は問わない)、または医師の判断によりやむを得ず治療を終了した日です。この日が属する年度末が申請期限です。
たとえば2019年8月30日に治療が終了した場合、この治療に関する助成の申請期限は2020年3月31日(消印有効)となります。
申請をすぎた場合は、助成の対象とならないので注意しましょう。
ただし、1月から3月までに特定不妊治療が終了し、年度内の3月31日までに申請書等が提出できない場合は、4月1日から6月30日(消印有効)までの期間に限り、申請が可能です。
妊娠できる確率は、年齢によって大きく変わります。妊娠率は年齢とともに下がり、反対に流産率は上がっていきます。日本産科婦人科学会の2016年のデータから、年齢による妊娠率を出したので参考にしてください。
【35才の場合】
・総治療周期数における妊娠率は24.7%
・胚移植が周期数のうち妊娠した割合は38.8%
・総治療周期のうち出産した割合は18.6%
【40才の場合】
・総治療周期数における妊娠率は14.5%
・胚移植が周期数のうち妊娠した割合は26.0%
・総治療周期数のうち出産した割合は9.0%
妊活期間は、男女ともに健康状態を確認し、改善するいい機会ともいえます。不妊治療の効果を上げるためにも、日々の暮らしを見直すことも大切です。
早寝早起きは妊娠しやすい体づくりの基本です。食事は寝る2時間前までに。また、パソコンやスマホも就寝前2時間前からは控えましょう。
肉や魚、卵、大豆製品などのタンパク質、野菜や海藻類に多いビタミン・ミネラル類を意識してとりましょう。
ダイエットの敵と言われている糖質も、不足すると体調不良を起こします。
肥満は不妊の原因となります。心地よいと感じられる程度の運動を習慣にしましょう。
運動は、卵子や精子を元気にするために重要なミトコンドリアの働きも活性化してくれます。
タバコは卵巣機能を悪化させ、妊娠する能力を著しく低下させます。
男性なら勃起不全の発症率が高くなり、酸化ストレスによって精子や受精卵のDNA構造が傷つきやすくなります。
流産や先天的な障害の原因にもなりえます。子どもをのぞむなら、夫婦ともに禁煙しましょう。
関連リンク:エッ!まだそんなこと言ってるの!? 妊活夫の「タバコの言い訳」大論破!!
冷えによって血流が悪くなると、排卵障害や子宮内膜が厚くならないなどの悪影響が出ます。
食事はしっかり食べる、適度な運動で体を温める、露出の多い服は避ける、しっかり湯船につかるなど、冷え予防を心がけましょう。
関連リンク:低体温はNG!妊活に悪影響しかない【ガンコな冷え性】はこう治す
精子をつくる機能は熱に弱いため、精巣(睾丸)は体温より低い35度に保つのが理想です。
サウナや長風呂はほどほどに。ノートパソコンを太ももの上に置いて作業するのも、睾丸のおんどを上昇させてしまうので避けましょう。
下着はぴったりフィットするものより、ゆとりのあるトランクスがベターです。
妊娠をつかさどるホルモンは、ストレスの影響を受けやすいです。
不妊治療中は、通院スケジュールや治療の進み具合など、気がかりなことが多く、ストレスがたまりやすいもの。自分なりのストレス発散法をみつけ、溜め込まないように気をつけましょう。
夫婦で旅行や食事に出かけたり、趣味に没頭したり、自分を甘やかす時間も持ちましょう。
関連リンク:妊活ストレスでドス黒い感情に襲われたときの脱出法
_______
健康な男女でも、排卵日に合わせてセックスして妊娠する確率は15%程度といわれています。よく「妊娠は奇跡」といわれますが、それは自然妊娠であっても、不妊治療による妊娠であっても変わりません。正しい情報をキャッチして、夫婦二人三脚で進んでいきましょう。
取材・文/浦上藍子
オーク住吉産婦人科
田口早桐先生
産婦人科医・生殖医療専門医。川崎医科大学卒業後、兵庫医科大学、府中病院をへて、医療法人オーク会(大阪・東京)にて不妊治療に従事。専門は「抗精子抗体による不妊」。自身も体外受精で2児の母に。https://www.oakclinic-group.com/
READ MORE
おすすめの関連記事
PICKUP