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    『体外受精のリスク』で知っておきたい6つのこと

    『体外受精のリスク』で知っておきたい6つのこと

    不妊に悩むカップルに希望を与える高度生殖医療。現在、日本では年間に約5万4000人の赤ちゃんが体外受精、顕微授精で生まれています。約18人に1人は、体外受精によって誕生しているという計算です。

    データからみると身近になりつつある医療ですが、副作用やリスクはないのでしょうか。

    納得して治療を受けるために知っておきたい、体外受精のリスクを解説します。

    そもそも体外受精ってどんな治療?

    体外受精(IVF)とは、採卵した卵子と精子を体外で受精させ、その受精卵を子宮に戻す方法です。

    一般的に排卵誘発剤で卵巣を刺激しながら卵を育て、成熟したところで採卵。シャーレに入れた卵子に、マスターベーションで採取した精子をふりかけ、培養器に入れて受精を待ちます。

    精子の状態がよくない場合は、卵子に1つの精子を注入して受精させる顕微授精(ICSI)という方法がとられることもあります。

    世界で初めて体外受精による赤ちゃんが誕生したのは1978年。以来40年あまりの間に、治療の技術はめざましい進歩をとげ、安全性も高まっていますが、それでも体外受精の治療では副作用のリスクを伴うものがあります。どんなリスクがあるのか、チェックしていきましょう。

    体外受精のリスク①卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

    排卵誘発剤によって起こる副作用のひとつです。多くの場合は軽症ですが、重症化すると呼吸困難や脳梗塞など、重篤な症状を引き起こすこともあり、注意が必要です。

    OHSSはどんなときに起きやすい?

    排卵誘発剤によって卵胞がたくさん育ち、エストロゲン値が高くなっている場合に起こりやすくなります。発症の引き金になるのは、hCGというホルモンです。

    hCGは妊娠すると分泌されるホルモンで、高エストロゲン環境になっているときに妊娠をすると、卵巣が過剰に刺激されて、さまざまな全身症状を起こしてしまいます。

    hCGは採卵前に注射薬としても使われるため、採卵前のhCGの投与で、卵巣過剰刺激症候群が引き起こされることもあります。

    OHSSの症状とは?

    卵巣が腫れて、おなかの張りや痛みなどの症状があらわれます。ほとんどの場合は、卵胞の数やホルモンの数値などを観察し、適切な対処をすることで、OHSSが重症化する前に防ぐことができます。治療中に体調の変化を感じたら、すぐに医師に相談しましょう。

    OHSSが重症化してしまうと、多量のエストロゲンによって血管の透過性が増し、血液からもれ出た水分が腹水や胸水となってたまります。重篤な場合は、呼吸困難を起こすことも。

    さらに血管内は脱水状態におちいり、血栓ができて脳梗塞や肺梗塞を発症したり、尿が出なくなって腎不全を起こすこともあります。

    どんな人に起こりやすい?

    OHSSは以下の人に起こりやすいと言われています。

    AMH(アンチミューラリアンホルモン)の値が高い人
    多嚢胞性卵巣症候群の人
    AFC(胞状卵胞数)が高い人:胞状卵胞数とは、月経3日目に左右の卵巣内にある小さな卵胞の数の合計のこと。AFCが30以上の場合はOHSSに注意
    年齢が若い人
    排卵誘発でHMG製剤やFSH製剤などの注射薬を使用している人:注射は飲み薬よりも作用が強く、OHSSのリスクが高くなる

    OHSSの危険があるときは?

    妊娠するとhCGが分泌されて症状が進行してしまうため、OHSSの危険があるときには、その周期の妊娠を避けます。

    タイミング法や人工授精でも、排卵誘発剤の注射を使ってエストロゲン値が高くなっている場合も、妊娠によって重症化する危険があるため注意が必要です。

    医師から「この周期には妊娠しないように」と避妊を指導される場合もあります。

    妊娠が成立せず、月経が起きればエストロゲンの数値は下がり、OHSSの症状も自然に治っていきます。

    OHSSになってしまったら?

    卵巣の肥大や腹部膨満感など、 OHSSの症状が見られたら、採卵前の注射を点鼻薬に切り替える、胚移植をキャセルするなどの対策がとられます。

    卵巣が大きく腫れたり、腹水がたまったりと重症化している場合は、入院して点滴治療を行う場合もあります。

    OHSSを発症しながら妊娠した場合は

    妊娠によってOHSSが重症化することが予測されるため、入院となるケースもあります。

    妊娠12週ごろをすぎると自然に症状はおさまります。

    OHSSを防ぐには?

    OHSSの兆候が出ているときに新鮮胚移植で妊娠すると、hCGホルモンの分泌で一気に症状が悪化することがあります。

    近年、急速ガラス化保存法という新しい技術の普及により、凍結胚移植の成績が向上してきました。卵巣が腫れるなどの兆候が見られたときには、受精卵を凍結して次の周期に移植を行うことで、OHSSを防ぐことができるようになっています。

    不妊治療中は体調の変化に注意し、腹部のむくみや膨満感などを感じたときはすぐ医師に相談するようにしましょう。

    体外受精のリスク②採卵時の麻酔の副作用

    採卵は膣から長い採卵針を刺して行います。痛みを伴うため、主に静脈麻酔と局所麻酔どちらかの方法がとられます。採卵する卵胞の数が少ない場合などは、麻酔を使わないケースもあります。

    使用される麻酔薬はさまざまですが、歯科治療やほかの外科手術にも使われるもので、おおむね安全といえます。ただし、まれにアレルギー症状などが出ることもあります。

    それぞれの麻酔法における副作用について、代表的なものを見ていきましょう。

    静脈麻酔の副作用

    全身麻酔の方法のひとつで、麻酔薬を静脈に注入します。採卵数が多い場合、また痛みへの恐怖が強い人に用いられる麻酔法です。

    副作用は以下のものがあります。

    吐き気、めまい、頭痛、体温低下、かゆみ

    麻酔薬の種類によっても異なりますが、1〜2割の人にみられる副作用です。しばらく安静にしていると、症状は快方に向かいます。もし翌日になっても症状が続く場合は、すぐに受診しましょう。

    アナフィラキシーショック

    ごくまれに麻酔薬に対してアレルギー反応が起き、呼吸困難や血圧低下など、アナフィラキシーショックの症状が出ることがあります。異常がみられた場合は、即座に点滴を中止し、処置を行います。

    局所麻酔の副作用

    手術をする部分に注射して感覚をなくし、痛みをやわらげる方法です。意識がなくならないため、処置後の安静が短くてすみ、体への負担が少ないのが特徴です。

    局所麻酔中毒

    非常にまれですが、意識障害や痙攣、ふるえなどの中毒症状が出る場合があります。

    多くは一過性なので、脈拍が早くなったり、頭痛などの症状が出たりしたときは、採卵をストップして経過をみます。

    体外受精のリスク③採卵時の出血・損傷・感染

    採卵は膣から超音波ガイドのついた長い針を挿入し、卵巣に穿刺(せんし)します。

    穿刺とは、中が空洞になっている針を刺して、内部の液体を吸い取ること。かつては16ゲージという太い針を使っていましたが、治療器具の改良も進み、現在では20〜22ゲージと細い針に変わっています。

    針の改良が進んだことで、出血の量も圧倒的に少なくなり、痛みも軽くなりました。

    それでも、以下のようなリスクがあるため、採卵には細心の注意と高い技術が必要なことには変わりはありません。

    大量出血のリスク

    採卵時、膣壁や卵巣表面にある血管から若干の出血が起こるのはよくあることで、自然に止血します。

    非常にまれですが、卵巣からの出血が止まらなかったり、卵巣周囲の血管を傷つけてしまったりすると大量出血につながる恐れがあり、輸血や開腹手術が必要になることも。医師はカラーの超音波で血管の走行を確認しながら、慎重に穿刺します。

    また、かつて太い針を使っていた時代には、なかなか出血がとまらず、腹腔鏡手術が必要になったケースもありましたが、技術改良が進んだ近年ではほとんど心配しなくても大丈夫です。

    卵巣周辺臓器の損傷

    卵巣の周囲には子宮・膀胱・直腸などがあります。ときには、膀胱を貫通しないと卵巣に到達できない場合もあります。

    その場合には、血管の走行などに十分注意して慎重に穿刺することになります。

    腸管は、穿刺してしまうと腹膜炎を起こす可能性があるため、傷つけることがないように避けます。

    膣内の細菌による感染

    膣内にはさまざまな常在菌が存在しています。採卵前には膣内を洗浄、消毒しますが、針とともに菌が腹腔内に入って、腹膜炎を起こしてしまうことがあります。

    予防のために抗生剤を飲むことが一般的ですが、それでも感染を防げない場合も。

    感染が起きた場合は、抗生剤による治療が行われます。軽度であれば内服、中度症以上になると入院して点滴治療が行われます。

    非常にまれですが、感染が重症化してしまうと、手術で卵巣を摘出しなければならないケースもあります。

    チョコレート嚢胞は感染リスクを高めます

    とくに気をつけたいのは、子宮内膜症によるチョコレート嚢胞がある場合です。嚢腫を傷つけると感染を引き起こす場合があるのです。

    チョコレート嚢胞の中には、古い血液が溜まっています。血液は、菌にとって最高の繁殖環境。温度も適温で栄養も豊富なため、ほんの少しでも菌が入り込むと一気に増殖してしまいます。最悪の場合、卵巣を摘出せざるを得ないことも。

    チョコレート嚢胞が大きいほどリスクも高まるため、嚢腫がある側の卵巣から採卵するかどうかは、慎重に検討する必要があります。

    体外受精のリスク④子宮外妊娠

    子宮外妊娠とは、子宮に着床するはずの受精卵が別の場所に着床してしまうトラブルで、医学的には「異所性妊娠」と言います。

    最も多いのは卵管に着床するケースです。ごくまれに卵巣や腹腔内、子宮頸管などで起きることもあります。

    体外受精の子宮外妊娠率はやや高い

    全妊娠のうち、子宮外妊娠の発生率は約1%。しかし体外受精では、発生率が1~5%にまで高まると言われています。

    移植時には子宮に受精卵を戻すのに、なぜ卵管などに移動をして着床してしまうのか、詳しい原因はまだ解明されていません。

    排卵誘発剤などによってエストロゲン値が高くなることが影響している可能性が指摘されています。

    凍結胚移植より新鮮胚移植で起こりやすい

    子宮外妊娠は、採卵した周期に受精卵を移植する「新鮮胚移植」で起きやすいということがわかっています。

    また、分割期胚移植より胞胚期移植のほうが、子宮外妊娠が起きにくいことがわかっています。子宮外妊娠の既往がある人は、胞胚を凍結胚移植することによりある程度予防することができます。

    子宮外妊娠になってしまったら

    子宮以外の組織では胎児に栄養を与えることができないため、妊娠の継続はできません。また、治療を行わないと破裂を起こして命に関わる危険もあります。診断が出たら、なるべくはやく妊娠を終わらせる必要があります。

    子宮外妊娠で多い「卵管妊娠」の場合、手術は腹腔鏡を用いて、胎児、胎盤とともに卵管を摘出する方法が一般的です。

    注射によって子宮外妊娠の組織を消失させる方法もあります。

    体外受精のリスク⑤多胎妊娠

    多胎妊娠とは文字通り、2人以上の胎児が子宮内に存在する状態のことです。単胎妊娠よりも、早産や妊娠高血圧症候群、胎児発育異常などのリスクが高いため、妊娠中からしっかりと経過観察・体調管理を行う必要があります。

    体外受精で多胎妊娠が増える理由

    体外受精での移植の際、子宮に戻す胚の個数が多ければ、それだけ妊娠率は上がります。しかし、同時に多胎妊娠の率も高くなります。

    体外受精が急速に発展した1990年代から2000年代にかけては、妊娠率を上げることに重きが置かれ、2個以上の受精卵を移植することも多く、多胎妊娠が増える背景となりました。

    しかし、多胎妊娠には大きなリスクがつきものです。現在、日本産婦人科学会では「移植する胚は原則として1個」としています。ただし、35才以上の女性の場合、または2回続けて妊娠が成立しなかった場合については、2胚移植も許容されています。

    多胎妊娠はなぜハイリスクなのか

    2胚移植によって発生しやすいのが「双胎」です。正確には「二絨毛膜二羊膜性(にじゅうもうまくにようまく)双胎」と呼ばれます。どんなリスクが考えられるのでしょうか。

    早産になりやすい

    双胎妊娠の約半数は早産になると言われています。子宮に2人の赤ちゃんが入るため、子宮は大きくなり、子宮壁が伸びすぎてしまうことが原因です。

    赤ちゃんは未熟な状態で生まれてくることになり、後遺症が残ったり、残念ながら命を救えないこともあります。

    母体への負担が大きい

    双胎妊娠では、妊娠性高血圧症、貧血・血小板の低下を引き起こすHELLP症候群などの母体合併症の発生頻度が高くなり、また発生時期も早くなる傾向があります。

    血栓塞栓症や胎児の発育不全、産後の過多出血などのリスクも高まります。

    分娩時の事故のリスクが上がる

    経膣分娩で出産する場合、微弱陣痛、胎盤早期剥離、子宮収縮不全、分娩後大量出血などが起きることがあります。

    とくに、1人目の分娩後から、2人目の分娩までの間は事故が起きやすく、注意が必要です。

    体外受精のリスク⑥「一卵性双胎」の発生率が高まる

    胚の1個移植でも多胎妊娠が起こる場合があります。1個の受精卵が2つに分裂してできる、一卵性双胎です。

    一卵性双胎は、二卵性双胎よりもさらにリスクが高く、設備のととのった病院で、経過をみて、管理をすることが求められます。

    一卵性双胎が起こりやすくなる理由

    受精卵を胚盤胞まで培養してから移植すると、一卵性双胎になる確率が上がります。そのメカニズムはしっかりと解明されてはいませんが、長期の培養によって細胞間の結合が弱くなり、2つに分裂しやすくなるのではないか、と考えられています。

    胚盤胞での移植は妊娠率が高まりますが、一卵性双胎のリスクについても理解しておかなければなりません。

    一卵性双胎のリスクは「双胎間輸血症候群」

    最も注意しなければならないのは、双胎間輸血症候群です。2人の赤ちゃんが血液の取り合いをしてしまい、片方は貧血、片方は多血症になって、どちらもおなかのなかで死亡してしまう病気です。赤ちゃんの発育に差が出てきたら、早く出産し、おなかの外で育てることになります。

    近年は、双胎間でやりとりしている血管をみつけ、レーザーで切る胎内手術も行われるようになっています。

    その他に体外受精で気になること

    先天異常が増えるって本当?

    確かに、早産や低出生体重児、先天異常などの発生率は、自然妊娠と比較して若干増加する、という報告があります。ただ、このデータをもって「体外受精は先天異常のリスクを高める」と言い切ることはできません。

    体外受精の技術によるものなのか、あるいは治療を受ける方の年齢、不妊の原因となっている疾患などが影響しているのかを判断することはできないからです。

    体外受精は、まだ誕生から40年ほどの医療です。さらに生殖細胞は世代を超えて受け継がれていくため、次世代、次々世代までにわたって検証をしていく必要があります。本当の意味での安全性を確認するには、まだまだ長い時間がかかります。

    体外受精によって不妊が遺伝することはある?

    男性にY染色体の一部が欠損しているAZFが認められるとき、体外受精や顕微授精によって生まれた子が男の子だった場合には、AZFが引き継がれ、無精子症や乏精子症を起こす可能性があります。

    ただ「体外受精=不妊の遺伝」は大きな誤解です。不妊の原因は、遺伝によるものではないことがほとんどです。

    体外受精だと流産しやすい?

    「体外受精をしたから流産が起こりやすくなる」という明確な証拠はありません。

    確かに、自然妊娠より体外受精のほうが流産が多いというデータがありますが、体外受精は胚移植後に必ず妊娠の判定を行うなど、妊娠の管理が厳重であること、体外受精を受ける人に比較的高齢のかたが多いことなどが、その原因と考えられています。

    流産の一番の原因は卵子の老化による受精卵の染色体異常で、卵子の老化は年齢に比例して進みます。「年齢が進むことで流産率が高まる」と考えるのが一般的です。

    体外受精の一種「顕微授精」は安全?

    顕微授精も体外受精の一種ですが、卵子に1つの精子を注入する顕微授精(ICSI)は、精子をふりかけて受精を待つ体外受精(IVF)よりもさらに一歩踏み込んだ不妊治療と言えます。顕微授精法で妊娠、出産した赤ちゃんも、先天異常などの頻度は自然妊娠と変わらないという報告があります。

    ただ、遺伝子上に原因がある男性不妊症は、生まれた赤ちゃんが男の子だった場合に、同じ遺伝子を受け継ぐ可能性があります。

    先天性の奇形、染色体異常や発育異常などが多い、という確たるデータありませんが、まだ新しい医療であるために、生まれた赤ちゃんの長期予後、次世代、次々世代への影響についてはわかっていない点もあります。

    適応外の顕微授精は過剰医療です

    ちなみに、顕微授精は下記のような場合に選択される治療です。

    乏精子症、精子無力症などで自然受精が困難
    受精障害がある
    抗精子抗体が陽性

    受精に問題がある場合に有効な治療であり、体外受精よりさらにステップアップした治療が顕微授精である、というのは誤った認識です。

    顕微授精が必要ないカップルに、顕微授精を行なっても必ずしも妊娠率は上がりません。顕微授精は、通常の体外受精よりもさらに高額で、費用の負担も大きいもの。「早く妊娠したいから」と顕微授精を検討するのは、かえって逆効果なこともあることを知っておきましょう。

    「レスキューICSI」で成功率を高める方法も

    近年登場した「レスキューICSI」は、通常の体外受精を行なったにもかかわらず、受精が成立しなかった場合に、追加で顕微授精を行なって受精卵を得る方法です。本当に顕微授精が必要な卵子に対してのみ顕微授精を行うことができます。

    これにより「受精しないと不安だから」「確実に受精卵が欲しいから」という理由だけで、安易に顕微授精を行う必要がなくなります。

    ただし、難易度が高く、さまざまな手間がかかるため、行なっている施設は限られています。

    日本の不妊治療の成功率は世界最下位?

    「世界最下位」と言われるのは、日本の採卵件数は世界一多いにもかかわらず、出生率は世界一低い、というところに基づいています。実態はどうなのでしょうか。

    一個移植を推進している影響

    まず考えられるのは、日本では「胚移植は原則1個」なのに対し、世界では「2胚移植」が行われているところも多くある点です。単純に多くの胚を移植するほうが妊娠・出生率も上がるので、データ上は日本に不利な数字となってしまいます。

    自然周期法が多く実施されている

    自然周期法とは、排卵誘発剤を使わないか、最小限の飲み薬のみを使い、自然の力で成熟する卵子を採卵して体外受精する方法です。年齢が40才以上の人、卵巣機能が低下している人、AMH値が低い人などに向いている方法で、薬を使わないために体への負担が軽くてすむメリットがあります。

    反面、採卵ができなかったり、受精卵ができずに胚移植まで到達できないこともあり、これが採卵件数が多いのに出生率が低い一因とも考えられます。

    日本の不妊治療の技術はとても高いです

    ひとくちに妊娠率といっても、「1胚移植なのか、2胚移植なのか」「分割卵で移植しているのか、胚盤胞で移植しているのか」など、データがとられる条件によっても数値は異なります。

    「日本の不妊治療は世界最下位」と聞くと、日本の不妊治療クリニックへの不信感が募るかもしれませんが、世界各国の不妊治療の実情を明らかにし、データ採取の条件をそろえなければ正確なデータとはいえません。

    日本の不妊治療のレベルは決して低くないばかりか、世界基準でみても先進国といって差し支えありません。検査機器や治療技術も進歩し続けていて、妊娠率を高めるための努力がなされています。

    経済的負担が大きすぎることも問題に

    不妊治療を始める際の不安要素として、薬の副作用や体への負担とともに大きいのが、経済的負担に対するものでしょう。

    不妊治療の多くは健康保険の適用外

    検査や治療、使われる薬の多くは、健康保険の適用外です。体外受精・顕微授精では、その費用もぐんと高くなります。一児当たりの費用は平均197万円、45才以上では5000万円を超えるとの衝撃的な試算もあります。

    ただ、費用のことで迷って治療のスタートが遅れてしまうのは、もったいないことです。年齢が上がるほど妊娠率は下がるため、スタートが遅れるほど、費用がかかる可能性が高くなるからです。

    助成金をうまく活用して、少しでも負担を軽くするよう工夫しましょう。

    治療の終えどきがわからなくなる

    治療をスタートしてすぐに妊娠する人もいれば、何年もかかる場合もあります。なかなか妊娠に至らない場合、治療をやめるべきかどうかで悩むかたも少なくないでしょう。

    移植を繰り返しても妊娠しない場合は、卵の質に問題がある、子宮内膜の状態がよくない、といったことも考えられます。

    また、子宮内膜の状態を見極めるための新しい検査も登場してきています。ERA(エラ)、EMMA(エマ)、ALICE(アリス)などの検査によって、これまで移植がうまくいかなかった人も成功するケースが増えています。

    ERA(子宮内膜着床能検査)/子宮内膜に受精卵が着床できる時間や時期を見極める検査。

    EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)/子宮内膜のフローラ(菌の集合体)を調べる検査。最近、子宮内の菌のバランスが妊娠率に影響するという研究報告が発表されています。

    ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)/子宮内の細菌のなかで、とくに慢性子宮内膜炎の原因となる細菌を検出する検査。

    ただ、さまざまな治療法を試みても、残念ながらすべての人が妊娠にいたるわけではありません。治療の終えどきは、医師に相談し、夫婦でよく話し合って決めるしかないのです。

    必ず妊娠できるという保証がないからこそ、治療のひとつひとつを理解し、夫婦で納得して進んでいくことが大切であるといえるでしょう。

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    体外受精・顕微授精は「必ず妊娠できる」という魔法の医療ではありません。また、治療の過程にはリスクも伴います。そうした可能性もきちんと理解したうえで治療にのぞむことが、治療期間を後悔なく過ごすためには欠かせません。

    副作用やリスクについて少しでも不安なことがあれば、医師に質問、相談をしてモヤモヤを残さないようにしましょう。

    取材・文/浦上藍子

    監修

    幸町IVFクリニック院長
    雀部 豊先生

    1989年東邦大学医学部卒業。同大学第1産婦人科に入局。93年に同大学院修了、医学博士。94年にアメリカに留学し、着床前診断の研究に携わる。2002年より幸町産婦人科副院長、11年より幸町IVFクリニック院長。

    関連リンク:幸町IVFクリニックレポート
    https://www.saiwaicho.com/

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