受精卵と胚の違いとは?胚のグレードって?わかりにくい体外受精の用語をやさしく解説【不妊治療専門医監修】
体外受精の用語がむずかしくてわからないけれど、なかなかドクターには聞けない…。そんな妊活・不妊治療中のかたの声をよく耳にします。
そこで、しっかり話を聞いて、わかりやすく説明してくれると定評のある、桜十字渋谷バースクリニックに、体外受精の基本用語について解説していただきました。妊活中のみなさんのギモンを一挙に解決します。
受精卵と胚は同じ?それとも違う?胚盤胞って何?
体外受精は、卵巣刺激(排卵誘発)→ 採卵・採精 → 受精 → 培養 → 凍結または移植というステップで進んでいきます。
その過程で、「受精卵が○個できましたよ」「胚は全部凍結できました」などと説明されることがあるでしょう。そのため、多くの人は受精卵=胚と思っているかもしれませんが、実は同じではありません。
受精直後の卵子=受精卵
分割を始めた受精卵=胚
「受精卵」とは、精子と卵子が受精した卵子のことで、まだ分割を始める前の状態のものを指します。受精卵は、培養すると細胞分裂をくり返し、2分割、4分割、8分割と成長していきます。この細胞分裂を始めた状態のものを「胚」といい、受精後2~3日目までの胚を「初期胚」といいます。
受精してから5日目ごろになると、胚は将来胎児になる部分(内細胞塊)と胎盤になる部分(栄養外胚葉)とに分かれます。その状態になったものを「胚盤胞」と呼びます。
胚や胚盤胞の「グレード」にはどういう意味があるの?
不妊治療専門クリニックでは、形態によって初期胚や胚盤胞に「グレード」をつけて評価します。胚の本当の評価は染色体を検査しなければわかりませんが、現在の技術では胚に影響を与えずに調べることができません。
そのため形態によって評価しているのですが、それは形態がよいほど胚の染色体が正常である可能性が高く、妊娠率も高くなるからです。複数の胚がある場合は、いちばん形態がよい胚を移植することで妊娠率をアップさせることを狙います。
ただし、形態評価はあくまでも見た目によるので、評価する培養士の経験や主観によって異なる可能性がありますし、評価が低くても妊娠する場合もあります。
桜十字渋谷バースクリニックでは、培養している受精卵を取り出さずに観察できるタイムラプスインキュベーターを使い、動画で発育の様子を確認して、もっともよい胚を選んでいます。
「初期胚」のグレードの見方は?
初期胚のグレードは、分割した細胞が均等な大きさであるか、「フラグメンテーション」と呼ばれる部分がどの程度あるかでグレードを決める「Veeck分類」という方法で評価します。グレードは1~5まであり、桜十字渋谷バースクリニックでは以下を目安としています。
【グレード1】細胞の大きさ:均等/フラグメンテーション:認められない(0%)
【グレード2】細胞の大きさ:均等/フラグメンテーション:概ね5~20%程度
【グレード3】細胞の大きさ:不均等/フラグメンテーション:概ね0~20%程度
【グレード4】細胞の大きさ:不均等/フラグメンテーション:概ね25~50%程度
【グレード5】細胞がほとんど認められない/フラグメンテーション:概ね50%以上
フラグメンテーションは、細胞分裂の際にできる「細胞の核がないまま分裂した部分」で、なぜできるのかハッキリとはわかっていません。
一般的にはフラグメンテーションの割合が多いと妊娠率が低いといわれていますが、フラグメンテーションが多い場合でも、5~6日まで培養すると胚盤胞になることもあります。
「胚盤胞」のグレードの見方は?
受精後5~7日の胚盤胞のグレードは、「Gardner分類」という方法で評価を行なう施設が多いでしょう。
Gardner分類では、胞胚腔(胚の内部の細胞がない部分)の大きさからみた発育状態を次の1~6までの段階で表し、それにICM(将来胎児になる部分)とTE(将来胎盤になる部分)の形態的評価を合わせてグレードをつけています。
胚盤胞の成長段階
1 初期胚盤胞
2 胚盤胞
3 完全胚盤胞
4 拡張期胚盤胞
5 孵化中胚盤胞
6 孵化胚盤胞
ICMとTEの形態的評価は、それぞれA~Cで表します。
Aは細胞数が多い
Bは細胞数がやや少ない
Cは細胞数がかなり少ない
という評価です。一般的に移植に適しているのはBB以上ですが、Cの評価が入っていても妊娠する可能性はあります。
例えば、以下のような場合だと、「成長段階は5段階目で、ICMもTEも良」の評価です。「3BB以上」で、ある程度妊娠が見込めます。
形態的評価 AA
形態的評価 BB
形態的評価 CC
胚移植のいろいろ、どう違う?
ひとくちに「胚移植」といっても、「初期胚移植」「胚盤胞移植」「新鮮胚移植」「凍結胚移植」といろいろな用語があり、はじめて聞くとわかりづらいですね。
初期胚移植と胚盤胞移植は胚の成長段階の違い、新鮮胚移植と凍結胚移植は胚の状態と移植の時期の違いです。初期胚移植、胚盤胞移植とも、新鮮胚移植、凍結胚移植のどちらかの方法で行ないます。
胚の成長段階による違い/「初期胚移植」と「胚盤胞移植」
「初期胚移植」では受精後2~3日目の胚を、「胚盤胞移植」では受精後5~7日目の「胚盤胞」を使って移植を行ないます。妊娠率は胚盤胞移植のほうが高く、桜十字渋谷バースクリニックでは胚盤胞移植を多く行なっています。
「初期胚移植」のメリットとデメリット
初期胚移植のメリットは、受精すればほぼ移植でき、複数個採卵できれば、多くはその回数分移植できることです。
デメリットとしては、胚盤胞移植に比べると妊娠率が低いことと、凍結胚移植をする場合、融解するときに胚盤胞より変性する可能性があることが挙げられます。
「胚盤胞移植」のメリットとデメリット
胚盤胞移植のメリットは、胚盤胞になるまでに形態の悪い胚は分裂を停止することが多いため、良好な胚を選んで移植できる分、妊娠率が高くなることです。しかし、なかには胚盤胞まで育たず、移植自体がキャンセルになることもあります。
一般的には、胚盤胞になる確率は35~38歳以上で低下し、43歳以上になると目立って低くなります。その場合は、初期胚移植を選択します。
胚盤胞移植にこだわらなくてもOK
若い方でも、「卵巣刺激の方法や培養液を変えてみても、どうしても胚盤胞になりにくい」という人もいます。
受精卵や胚にとっては子宮の中が最もよい環境であり、体外の環境がその胚に適していないため、胚盤胞にならないのではないかという説もあり、そのような人には初期胚移植があっていると考えられます。必ずしも胚盤胞移植にこだわる必要はないので、主治医と相談してみましょう。
胚の状態と移植の時期による違い/「新鮮胚移植」と「凍結胚移植」
「新鮮胚移植」は受精させたあと凍結しないで、卵巣刺激や採卵と同じ周期に胚移植を行なう方法、「凍結胚移植」は、受精させた胚または胚盤胞を一度凍結し、その周期とは別の周期に凍結した受精卵を溶かして胚移植を行なう方法です。
妊娠率が凍結胚移植のほうが高いなどの理由から、桜十字渋谷バースクリニックでは凍結胚移植を行なうことがほとんどですが、患者さんの希望や、メリット・デメリットを考慮して新鮮胚移植を行なうこともあります。
「新鮮胚移植」のメリットとデメリット
新鮮胚移植のメリットは、胚移植から妊娠判定までが1周期で済むことや、本来育つべき子宮内の環境に早く戻してあげられることです。一方で胚が着床しにくかったり、「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」を起こす可能性があるというデメリットがあります。
胚が着床しにくくなるのには、女性ホルモンが関わっています。月経周期は、女性ホルモンによってコントロールされていて、卵胞が成熟するにつれてエストロゲンが分泌され、十分に卵胞が発育するとエストロゲンが多量に分泌されて、排卵が起こります。すると、排卵後の卵胞(黄体)から分泌が始まるまで、エストロゲンの量はいったん少なくなっていきます。
新鮮胚移植の場合、卵巣刺激をしたことによって着床の時期にもエストロゲンの多量産生が続いていることがあり、受精卵が着床しにくくなる可能性があります。
また、排卵後の卵胞からはプロゲステロンも分泌されます。しかし、卵巣刺激をする場合には、排卵前からプロゲステロン濃度が高くなっていることがあり、それによって妊娠率が低下するという報告もされています。
卵巣刺激によって、卵巣過剰刺激症候群が起こるリスクも高くなります。卵巣は通常時には1.5cm程度の大きさですが、排卵誘発剤で刺激されることで卵巣が大きく腫れておなかが張ったり、痛みを伴ったりという症状が出ることがあります。
重症化すると、おなかや胸に水が溜まる、血栓ができるなどの症状が見られることもあり、注意が必要です。
「凍結胚移植」のメリットとデメリット
メリットの1つは、卵巣刺激とは別の周期で移植を行なうため、卵巣過剰刺激症候群のリスクがないことです。
もう1つは、新鮮胚移植に比べて妊娠率が高いこと。日本産科婦人科学会の2018ARTデータブックによると、新鮮胚移植の妊娠率は21.1%、凍結胚移植の妊娠率は34.7%で、10%以上高くなっています。
ただし、凍結する方法によっては、融解するときに胚が100%元の状態に戻るとは限らないというデメリットもあります。
用語を理解して医師とのコミュニケーションを円滑に
「不妊治療を進めていく際、私たち医療者は、患者さんの思いや希望をきちんとうかがって、納得できる治療方針を一緒に考えていきます。そのためにも、患者さんご自身が用語を理解されていたほうが、要望を伝えやすいのではないかと思います」と先生は話します。
桜十字渋谷バースクリニックでは、新型コロナウイルス感染症への対応として、これまでクリニックで開催していた不妊治療セミナーを体外受精オンライン説明動画に切り替えて、毎週土曜日に配信。体外受精治療中の方やステップアップを考えている方にわかりやすくお伝えしています。
文/荒木晶子
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