卵子凍結の検査やスケジュールって、どうなっているの? 卵子の保存方法や妊娠率も解説【専門医監修】
「将来、子どもは欲しいけれど、今は考えられない」「何歳までに卵子凍結すればいい?」。東京都の助成金も始まって、注目されている「卵子凍結」。でも、聞いたことはあるけれど実はよく知らない、という人も多いのではないでしょうか?そこで、卵子凍結の基本的なことから聞いてみたかった疑問まで、浅田レディースクリニック理事長の浅田先生に伺いました。
連載の第3回目は採卵する際の検査やスケジュール、凍結後の保存、融解・受精についてです。
連載第1回目から読む→卵子凍結のメリット・デメリットは? 知っておきたい基礎知識【専門医監修】
採卵する前には、どんな検査が必要なの?
採卵とは、排卵する前に卵巣から卵子を体外にとり出すこと。卵子を凍結する前に行う採卵では、体への負担をなるべく少なくするため、1回でできるだけ多くの卵子を採取することを目ざします。そのため、卵巣を刺激して、複数の卵子を育てる必要があります。
その卵巣刺激より前に、体の状態を調べるため、浅田レディース品川クリニックでは初診時に以下のような検査を行います。このうち、ホルモン負荷テスト(LH-RHテスト)は月経中に行う検査なので、生理開始から3日目ごろに受診すると、すべての検査を1日で終えることができます。
●経腟超音波検査
腟からプローブという細長い機器を入れ、子宮筋腫や卵巣嚢腫など子宮・卵巣の異常がないかどうか、卵胞の数がどのくらいあるかなどを確認します。
●血液検査
採血することで、以下のことがわかります。
・FSH(卵胞刺激ホルモン)
脳の下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンの1つで、卵胞の成長を促します。
加齢によって卵巣機能が低下すると、FSHの値は高くなります。すると、卵巣を刺激してもなかなか卵胞が育ちません。一方、FSHが低い場合は下垂体の機能が低下している可能性があり、排卵にしくくなります。
・LH(黄体化ホルモン)
FSHと同じように下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンの1つで、排卵を促します。FSHによって成長した卵胞から女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)が分泌されるようになり、その濃度が一定以上になるとLHが分泌されて排卵が起こります。
FSHの値が正常なのにLHの値が高い場合は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の可能性があり、超音波検査をすると卵巣にたくさんの小さい卵胞が連なった状態が確認できます。これは「ネックレスサイン」と呼ばれ、PCOSの代表的な超音波所見になります。PCOSでは排卵しにくく、月経周期は長くなりがちです。
逆にLHの値が低い場合は、FSHと同様、下垂体の機能が低下していることが原因で排卵しにくくなります。
・甲状腺刺激ホルモン(TSH)
甲状腺ホルモンにはさまざまな働きがあり、主に体の新陳代謝を調節しています。妊娠中は赤ちゃんの発育のため重要なホルモンになります。大きく変化すると卵胞発育や月経周期にも影響します。甲状腺刺激ホルモンは下垂体から分泌され、甲状腺にホルモンを出すように命令しています。
甲状腺ホルモンが不足するとホルモンを出すように働きかけるため、TSHの値は高くなります。甲状腺機能が低下している可能性があり、無排卵や無月経になりやすくなります。
甲状腺ホルモンがたくさん分泌されているとTSHの値は低くなり、甲状腺機能が必要以上に働いている可能性があります。この場合は、排卵するまでの期間が短くなります。
・AMH(抗ミュラー管ホルモン)
AMHは、発育途中の卵胞から分泌されるホルモン。AMH値が卵巣にどれくらいの卵子が残っているか(卵巣予備能)の指標となります。
卵巣に残っている卵子の数には個人差が大きく、AMHの値は年齢とは関係なく、人それぞれです。「30歳ならこのくらい」などの基準値もありません。値が高い場合は多嚢胞性卵巣症候群、低い場合は残っている卵胞の数が少なくなって早発卵巣不全(早発閉経)予備軍の可能性があります。
・感染症検査(B型肝炎・C型肝炎・梅毒・HIV)
B型肝炎や梅毒、HIVは性行為によって感染する性感染症で、C型肝炎もまれではありますが性行為で感染することがあります。
妊娠中や出産時に赤ちゃんに感染する可能性があるため、事前に検査しておきます。特に最近は梅毒の感染がふえているので注意が必要です。
・クラミジア
クラミジアは性行為によって感染する性感染症の中でも、最も多く見られるものです。感染するとおりものがふえたり、下腹部痛が起こったりしますが、症状がない人も少なくありません。
そのまま放置してしまうと、クラミジアが腟から子宮、卵管にまで感染し、炎症を起こして卵管が癒着したり、卵管が詰まったりするなど不妊の原因となります。
・風疹
妊娠初期に風疹に感染すると、「先天性風疹症候群」といって流産したり、赤ちゃんが障害をもって生まれてくる可能性があります。
この検査を行うと、風疹に対する抗体がどのくらいあるかがわかります。抗体の値が低い場合は、ワクチン接種がすすめられます。
●ホルモン負荷テスト(LH-RHテスト)
ホルモンを分泌する脳の視床下部や下垂体の機能に異常がないかどうかを確認するテストです。
浅田レディース品川クリニックの場合、注射前に採血を行い、LH-RHホルモンの注射を行ったのち、30分後に採血してFSHとLHの値を測定します。クリニックによって、注射後に調べる時間は異なります。
この検査の結果は、卵巣刺激の際にOHSS(卵巣過剰刺激症候群)を起こさないように使うGnRHアゴニスト点鼻薬が効くかどうかの目安となります。この点鼻薬は、長期に使用するとFSHやLHの分泌を抑え、エストロゲンがつくられたり、分泌されたりするのも抑える効果があり、子宮内膜症や子宮筋腫の治療薬にもなるものです。
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医療法人浅田レディースクリニック理事長。
より短い治療期間で妊娠という結果を出すため、エビデンスに基づいた治療や痛くない不妊治療・痛くない採卵を行なう。1982年名古屋大学医学部卒業。88年名古屋大学医学部附属病院産婦人科医員として不妊外来を担当。95年同病院分院でICSIによる治療開始。同年日本ではじめて精巣精子を用いたICSIによる妊娠例を報告。2004年浅田レディースクリニック(現・勝川クリニック)開院、10年浅田レディース名古屋駅前クリニック開院、18年浅田レディース品川クリニック開院。著書に『名医が教える最短で授かる不妊治療』『女の子が知っておきたい卵子のハナシ。』がある。
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