男性不妊の治療方法は?子どもができにくい原因や検査・治療の流れ
赤ちゃんをなかなか授からない場合、女性が不妊治療をするケースがまだまだ多いですね。でも、不妊原因の約半数は男性側にあることが、WHO(世界保健機関)の調査でわかっています。
保険診療になったとはいえ、不妊治療には時間もお金もかかるのが事実。遠回りを防ぎ、2人に最も適した治療をするためには、まず原因を探ることが欠かせません。男性不妊の原因や検査方法、どのように治療するかについて、知っておきましょう。
男性不妊の主な原因
男性不妊には原因不明のものもありますが、原因がわかるものは大きく3つに分けられます。それぞれについて、詳しくみていきましょう。
造精機能障害
精子そのものをうまくつくることができない場合で、数が少なかったり、質が悪かったりするため受精しにくくなります。厚生労働省による2016年の調査*では、男性の不妊原因の約8割を占めています。
造精機能障害になる主な理由は、次のようなものです。
*我が国における男性不妊に対する 検査・治療に関する調査研究(厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業)
●精索静脈瘤
精巣から心臓に戻る静脈血が逆流して、陰のう上部がうっ血するため、精巣やその上の精索部がこぶのように腫れたり、でこぼこした状態になります。
うっ血によって精巣の温度も上がり、精子をつくる機能や男性ホルモンの分泌の低下、精液所見(濃度や運動率など)の悪化を引き起こすことがあります。酸化ストレスも増加するため、精子のDNAやミトコンドリアの損傷も起こりやすくなります。
●無精子症
精液の中に精子がまったく見られない疾患です。「閉塞性無精子症」と「非閉塞性無精子症」がありますが、原因不明のことも少なくありません。
閉塞性無精子症とは、精巣では精子がつくられていますが、精子の通り道である精管が詰まってしまい、精子が精液中に出られない状態です。原因として、おたふくかぜや扁桃炎後の精巣炎、鼠径ヘルニアの術後などがあります。
一方、非閉塞性無精子症では精巣内で精子がつくられていない、もしくはつくられていても非常に少ないという状態です。X染色体の数が通常より多かったり、Y染色体の一部の遺伝子が欠けているなど先天性の変異が原因である場合があります。
●乏精子症・精子無力症
乏精子症は精液中の精子が少ない状態、精子無力症は精子の運動性が悪い状態をいいます。合併していることも多く、精液の基準値からどの程度はずれているかで、不妊治療をどこからスタートするかが変わってきます。
性機能障害
勃起や射精がうまくできない場合をいいます。勃起しなかったり、勃起しても続かずに性行為ができない「勃起障害(ED)」、マスターベーションでは射精できるのに、膣内に挿入するとできない「膣内射精障害」、射精した感覚はあるのに、膀胱に精液が逆流してしまう「逆行性射精」などがあります。
原因は、緊張やストレスなど精神的なもののほか、糖尿病などの病気によって引き起こされることもあります。
精路通過障害
精子の通り道である精管が狭かったり、詰まったりしている状態で、原因には先天性と後天性の2つがあります。
先天性の原因には、遺伝によって生まれつき精管がない「両側精管欠損症」があります。一方、後天性の場合は、子どものころの「鼠径ヘルニア」や「停留精巣」の手術、「尿道炎」や「精巣上体炎」、ケガによる癒着での閉塞などが原因となります。
鼠径ヘルニアは、おなかの中にある腸などが太ももの付け根の筋肉を包んでいる膜の間から皮膚の下に出てきてしまうもので、足の付け根がふくらんで見えます。停留精巣は、陰のうの中に精巣が下りてこない状態です。どちらも男の子ではよく見られ、子どものときに手術することが多い疾患です。
尿道炎や精巣上体炎は、尿道口から淋菌やクラミジアなどの病原菌が感染して起こります。尿道炎は尿道口から膿が出たり、排尿時に痛むなどの症状が、精巣上体炎は感染した側の陰のうが腫れる、頻尿、排尿時に痛むなどの症状が見られます。ただし、軽症の場合は症状がほとんどないこともあります。
男性不妊の検査では何をする?
男性不妊の原因となる病気や状態を治療する前に、まずは検査が必要です。泌尿器科や不妊治療専門クリニックを受診すると、初診時に以下のような検査を行います。
精液検査
妊娠するためには、精液の所見が非常に重要になってきます。精液検査とは、精液自体に異常がないかどうかを確認する検査で、精液量のほか、精子の濃度や運動率、運動の質、精子の形態、感染の有無などを調べます。
精液は、マスターベーションで専用のカップに採取します。射精の間隔が空きすぎると精子の運動率が落ちますし、前日に射精してしまうと精子の数が少なくなるため、射精後、中1~2日ぐらいで検査を受けるようにします。
最近では、自宅で精液を採取して医療機関に持参する施設が一般的ですが、採取後に医療機関に提出するまでに精子の質が落ちないよう、持ち運ぶ際には体温と同じ温度に保ち、紫外線から守ることが必要です。温度の低下を防ぐため、寒い時期などは内ポケットに入れるなどの工夫をするとよいでしょう。持ち運びの時間は3時間以内が目安になります。
採取した精液は、検査技師や培養士、医師が肉眼でチェックします。最近では、自動分析装置でより詳細に解析する施設も多くなっています。結果は検査当日にわかり、以下の基準を参考に治療方針を決定していきます。ただし、精液所見は体調や精神状態などによってかなり変化します。また、治療方針は奥様の状態とも照らし合わせながら、総合的に決めていくことが重要となります。
<WHOが発表した精液検査の基準値(2021)>
下限基準値(95%信頼区間) | |
精液量 | 1.4ml(1.3ml-1.5ml) |
精子濃度 | 1600万ml(1500万~1800万ml) |
総精子数 | 3900万(3500万~4000万) |
運動率 | 42%(40%~43%) |
前進運動率 | 30%(29%~31%) |
生存率 | 54%(50%~56%) |
正常形態率 | 4%(3.9%~4.0%) |
出典:「examination and processing of human semen Sixth Edition p213」(WHO)
泌尿器科的検査
精液以外の原因を調べるため、触診や問診、超音波検査(エコー)、採血による内分泌・染色体・遺伝子検査などを行います。
触診では、精巣のサイズの測定、陰のうの腫れやでこぼこ、精巣上体の大きさや精管の太さの確認、圧痛や違和感、欠損箇所の有無などを調べます。
問診では、耳下腺炎や鼠径ヘルニアなどこれまでにかかった病気、奥様の年齢・不妊治療の内容、これまでの本人の検査や不妊治療の内容、生活習慣などについて尋ねます。
超音波検査では、精索静脈瘤や精巣内の石灰化、精巣腫瘍などがないかを確認します。
血液検査では、卵胞刺激ホルモン(FSH)や男性ホルモンのテストステロンなどの値を調べます。FSHの値が高い場合は造精機能障害が考えられます。
精液検査の結果、無精子症と診断された場合には、血液検査で染色体異常や遺伝子異常なども調べます。染色体異常ではX染色体の数が多い状態や染色体の一部が移動している状態、遺伝子異常ではY染色体の一部が欠けている状態などが見つかることがあります。
男性不妊の場合、どのような治療を行う?
検査を行って原因がわかった場合は、それに応じた治療を行います。同時に、普段の生活の中に精子の状態にかかわるポイントがないか、指導していきます。
内科的治療(薬物療法)
乏精子症や精子無力症など、精子をつくる機能に問題がある場合は、漢方薬やビタミンC・Eなどのビタミン剤、血流を改善する薬を処方して、精子の質の改善を図ることがあります。精子をつくる機能が低下する原因がFSHなどのホルモン分泌にある場合には、ゴナドトロピンリリーシングホルモンを処方します。
性機能障害のうち、EDはバイアグラやシアリスなどのホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5)を使って治療します。
また、精子の状態の改善を目指して、以下のような生活習慣の見直しをすすめます。
◇喫煙
ニコチンによって血管が収縮し、精巣の血流も悪くなります。すると、造精機能が低下して、精子の濃度や運動率の低下、精子の奇形率の増加が起こり、受精率が下がったり、妊娠しても流産するリスクが高くなるだけでなく、EDの原因になることも。加熱式タバコにもニコチンが含まれているため、控えたほうが安心です。
◇お酒
適量は1日にワインならグラス1杯、ビールなら350ml程度です。適量であれば、ほぼ毎日飲んでも特に問題はないといわれています。これ以上の量でも、月に1~2回程度なら気にしなくてもよいですが、毎日飲むのはNGです。
◇トランクスではなくブリーフをはいている
精巣は体の外に出ていて、体温より2度ほど低い温度を保つことで正常に機能しています。ブリーフは体にぴったり密着するため、熱がこもって精巣の温度が上がってしまうので、精巣を圧迫せず、風通しのよいトランクスのほうがのぞましいでしょう。
◇長時間座ったまま仕事をする
長時間座ったままだったり、ひざの上にパソコンを置いて作業をしていると、ブリーフの場合と同様、精巣に熱がこもる可能性があります。
同じ理由で、サウナや長時間の入浴、長時間バイクや自転車に乗るなども要注意です。バイクや自転車の場合は、神経が圧迫されてEDになる可能性もあるので、ときどき休んだり、立ちこぎをしたりするといいでしょう。
◇肥満
肥満の男性は、肥満でない男性に比べて精液量や総精子数が少なく、精子濃度も低い人が少なくありません。肥満の原因として脂っこい食事や運動不足などが考えられますが、これらは血流を悪くするため、精巣の血流にも影響があります。また、皮下脂肪によって体に熱がこもることで、精巣の温度も上がりやすくなります。
◇薄毛治療の内服薬を服用する
プロペシアやザガーロなどの薄毛治療薬は、テストステロンの活性を抑えるため、精子の数が少なくなるなどの影響が出ることがあります。これらの薬を服用している場合は、一度精液検査を受けてみましょう。同じ薄毛治療薬でも、血管に作用するミノキシジルは影響がありません。
◇栄養不足
精子に良い影響を与えるといわれるオメガ3脂肪酸(DHA+EPA)は、魚のうちでも特にサバやイワシなど青魚に多く含まれています。積極的に食べるようにすると、精子の質を良くすることができるでしょう。
葉酸、ビタミンB12、亜鉛などは、精子の質を改善するといわれています。葉酸はブロッコリーや葉物野菜、ビタミンB12はしじみやあさりなどの貝類、青魚、牛・豚・鶏のレバーなど、亜鉛はカキや豚レバー、牛赤身肉、卵などに多く含まれています。食事だけでとりきれていなかったり、精液検査で数値が低かった場合は、サプリメントを摂取するのも一つの方法です。
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外科的治療(手術)
精索静脈瘤には、逆流する原因である精巣静脈をしばる「結紮術」を行います。手術は保険適用の対象です。この手術でうっ血が解消すると、精液の状態が改善して自然妊娠率が上がり、体外受精にステップアップしたときの妊娠率もよくなるといわれています。
閉塞性無精子症には、精子の通り道を開通させる「精路再建術」を行います。精管同士をつなぎ直す手術や精管と精巣上体をつなぐ手術などがあり、開通によって精子が精液中に出るようになれば、タイミング法や人工授精で妊娠できることもあります。ただし、閉塞範囲が長い場合や精管欠損の場合は、この方法では開通させることが困難となります。
開通が困難な閉塞性無精子症や非閉塞性無精子症の場合には、陰のうを切開して精巣組織(精細管)を採取し、精子を探し出す精巣内精子回収術(TESE)という手術もあります。TESEは体外受精と同様に、保険での治療が可能となっています。
TESEによって閉塞性なら100%近く精子を回収できますが、非閉塞性無精子症の場合は、手術用顕微鏡を用いて行うMD-TESE(Micro-TESE)のほうが、精子が見つかる可能性が高くなります。
TESEで回収できた精子は、凍結保存するのが一般的です。事前の検査の結果、精子がとても少ないと思われる場合は、凍結による精子へのダメージを防ぐため、採卵日に手術を行ってすぐに顕微授精することもありますが、泌尿器科と連携がとれる施設に限られます。
早めの検査がおすすめ
精液検査を受けた結果に万一問題があっても、原因がわかれば治療できるケースもありますし、顕微授精などで妊娠できる可能性も広がります。
精子は日々つくられているため、女性より加齢の影響は少ないといわれますが、男性の加齢ととともに妊娠率や出産率が低下するというデータもあります。赤ちゃんを望んでいる場合は、早めに検査を受けましょう。
文/荒木晶子
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妊活スタート!治療の流れ
「赤ちゃんが欲しい」と思ったら妊活スタート。第一歩は病院探しから始まります。
1.まずはあなたにぴったりの病院を探す
>>病院検索はこちらから
●病院の診療時間もチェック!
自分のライフスタイルにあった診療時間のクリニックかも合わせて確認しましょう。
あかほしの検索機能を使えば、9時前に診察OK、18時以降も診察している、土日祝も診察している、など条件からも探すことができます。
2. 予約(WEB予約をクリック)
受診するクリニックを決めたら、予約をいれましょう。WEBで予約をできるクリニックも増えています。初診だけは電話などで予約のクリニックもあるので、確認しましょう。
3. クリニックに行く/問診票に記入
予約した日程にクリニックにいったら、まずは受付&問診票に記入。問診票には、最終月経の状態、生活習慣、既往歴など検査に必要な質問項目に答えます。生理中でもできる検査もあります。
4. 先生によるヒアリング
事前に記入した問診票を見ながら、医師と直接話す問診タイム。日ごろから気になっていることなどはここで質問を。過去の病歴や、流産・中絶経験などもつつみかくさず正直に答えることが重要です。
5. 内診&超音波検査
外陰部の視診や触診、腟鏡を使って腟内の状態確認を内診台の上で行います。外側からは見ることができない子宮や卵巣の内部は超音波で検査します。不妊治療における超音波検査は、内科の聴診と同様の位置づけだと考えましょう。
6. 血液検査&尿検査
血液検査と尿検査は、ほとんどのクリニックで初診の時に行われます。不妊の原因になる疾患が見つかればその治療が優先されるので、初診で調べるのが基本。
7. 会計・次回の予約
ひととおり検査が終了したら待合室に戻ります。その後、会計をすませて初診の検査は終了。検査結果が出るスケジュールを聞いて次回の予約をします。初診時の多くの検査は保険が適用されますが、保険適用の有無は確認しておくと安心です。
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医学博士。2005 年鹿児島大学医学部卒業。2016 年神戸大学医学部腎泌尿器科助教。同年4 月より英ウィメンズクリニック男性不妊外来を担当。2018 年11月、男性不妊を専門とする医師が複数在籍する英メンズクリニック院長に就任。
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