「新型出生前診断」を知っていますか?いつから受けられる?メリット・デメリット、検査の流れ、検査結果…陽性の場合は?【読んでおきたい医師監修の正しい情報】
ニュースや新聞などでは、「この春から新型出生前診断の対象や受けられる施設が拡大する」という話題が取り上げられています。
「受けられるなら受けてみたい」と思っている方も多いのではないでしょうか。
そこで、出生前診断(出生前検査)の種類や受けられる時期、メリット・デメリット、受ける前に考えておくべきことなどについて、東京医科歯科大学血管代謝探索講座・遺伝子診療科の江川真希子先生にお話を聞きました。
新型出生前診断の「新型」とは?
新型出生前診断は、正式には「非侵襲的出生前遺伝学的検査」または「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)」といいます。
日本産科婦人科学会が指針を策定し、関係学会等の連携のもと、日本医学会が認定した認定施設において実施されています。
2013年から行われるようになった検査で、「ほかの出生前診断より新しい検査」という意味で、ニュースや新聞などでは「新型出生前診断」と呼ばれることが多くなっています。読者のみなさんにはこの名称が広く浸透していることから、この記事内においても「新型出生前診断」を使用して解説していきます。
出生前診断(出生前検査)とは
目的は?なにがわかる検査?
生まれてくる赤ちゃんの20~30人に1人は、なんらかの病気を持っているといわれています。出生前診断(出生前検査)は、おなかの赤ちゃんの健康状態をより詳しく知るために行なう検査で、生まれる前に知っておくことで、分娩の時期や方法、生まれてからの療育環境などの準備をすることが目的です。
ただし、生まれてくる赤ちゃんの病気には、心臓疾患や遺伝病などさまざまなものがあり、そのうち出生前診断(出生前検査)でわかるのは21トリソミー(ダウン症候群)を代表とする染色体疾患などごく一部です。また、実際の症状についてはわかりません。
出生前診断(出生前検査)の種類
出生前診断には「非確定的検査」と「確定的検査」の2種類があります。
非確定的検査は、おなかの赤ちゃんの病気の可能性を評価する検査です。採血などで調べることができるため、胎児の流産リスクがありません。新型出生前診断も非確定的検査の一つです。
確定的検査は、非確定的検査の結果、おなかの赤ちゃんに病気の可能性がある場合に診断をつけるために行なう検査です。子宮に針を刺して羊水などを採取するため、なにより流産のリスクが生じます。
それぞれには以下のような検査があります。
非確定的検査(胎児の流産リスクがない検査)
●超音波マーカー検査
妊娠11週ごろに行う、超音波検査です。これに採血を組み合わせた検査もあります。
超音波検査で胎児の頚部(首の後ろ)を測り、採血では母体血清マーカーを調べます。これらによって、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミーなどの確率を算出します。
●母体血清マーカー検査
妊娠15~17週ごろに採血で行なう検査で、「クアトロテスト®」などがあります。21トリソミーや18トリソミー、二分脊椎の確率を調べることができます。
●新型出生前検査(母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT))
確定的検査(母体への負担が大きく&流産リスクが生じる検査)
●絨毛検査
超音波検査や新型出生前診断でおなかの赤ちゃんの病気が考えられ、診断を確定させる必要がある場合、妊娠10~13週の間に、胎盤の一部である絨毛を採取して行なう検査です。
母体のおなかに針を刺して絨毛を採取するため、出血や破水、わずかですが最終的に流産してしまうリスクがあります。検査結果は2~3週間後にわかります。
●羊水検査
超音波検査や新型出生前診断でおなかの赤ちゃんの病気が考えられ、診断を確定させる必要がある場合に、妊娠15週以降に行なう検査です。
母体のおなかに針を刺して羊水を採取するため、絨毛検査と同様に出血や破水のリスクがあり、最終的に流産になってしまうこともあります(確率は1/200〜1/300)。2~3週間後に検査結果が出ます。
新型出生前診断、受けられるのはいつから?
新型出生前診断を受けられる時期
妊娠10週ごろから検査が可能で、採血で行ないます。
採取した血液中に含まれるおなかの赤ちゃんのDNA(正確には胎盤由来のDNA)を分析して、染色体の変化である21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの確率がどのぐらいあるかを「陰性」「陽性」で判定します。
人間の体は37兆個の細胞でできています。そして、全身どの細胞にも同じ染色体が存在しています。
染色体というのは、親から子へ受け継がれる遺伝情報が詰まったDNAが折りたたまれているもの。人の染色体は通常、22種類(44本)の常染色体と2本の性染色体の合計46本で成り立っています。
常染色体には長いものから順番に1~22番までの番号がつけられ、性染色体には「X」と「Y」があって「XX」なら女性、「XY」なら男性になります。
染色体は両親から1本ずつもらうので、本来、染色体は2本で1組になります。
21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーは、常染色体のそれぞれ21番目、18番目、13番目が3本ある変化です。常染色体の数に変化があった場合はほとんどが流産になりますが、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの赤ちゃんは生まれてくることができます。検査では、そんな染色体の変化を判定することになります。
検査の流れについて
出生前診断を受ける前には、パートナーと一緒に「遺伝カウンセリング」を受けます。
この「遺伝カウンセリング」は、染色体のしくみや染色体の変化による病気、検査の特徴、検査を受ける場合と受けない場合それぞれのメリット・デメリットなどについて、理解を深めるプロセスになっています。
遺伝カウンセリングでは、検査を受けることによる心理的影響や家族への影響、検査を受けることの意味を考え、意思決定するために必要な情報等が提供されます。
検査のための採血は遺伝カウンセリング後の当日に行なっても、パートナーともう一度話し合ってから後日行ってもかまいません。
採血検査の結果は陰性、陽性ともに遺伝カウンセリングで開示されます。そして、陽性だった場合には、再度遺伝カウンセリングを受けて、確定的検査を受けるか受けないかを決めます。
新型出生前診断、考えられるメリット・デメリット
問題点や危険は?
新型出生前診断は正式名を「非侵襲性出生前遺伝学的検査」というとおり、胎児が流産するリスクはありません。通常の健診で行なう血液検査と同様、採血で調べられる検査です。
ただ、特別な機器や医師の技術が必要ではないため、実は遺伝カウンセリングを行っていない施設(非認定施設)でも検査が実施されていたり、母体と胎児 両者の専門家である産婦人科医が関わることなく検査を行っている施設があるという現状があります。
万一結果が陽性だった場合には、多くの方がショックを受けると思いますが、採血の結果を知らせるだけの施設もあり、その後のサポートが何も得らなかったり、「妊娠中には赤ちゃんの病気を知りたくなかった」と検査を受けたことを後悔したりするなどの問題が起こっていることも事実です。
新型出生前診断で性別がわかるってホント?
新型出生前診断の検査結果では、おなかの赤ちゃんの性別はわかりません。
技術として調べることができるのは確かですが、本来の検査の目的とは異なるため、検査結果は21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーについて「陰性」「陽性」の結果で返ってきます。
新型出生前診断の結果について
検査の結果は、どれぐらいで出るの?
検査結果は、約2週間で返却されます。赤ちゃんが対象の疾患を持つ可能性が高い「陽性」、高くない「陰性」、そして検査結果が出せない場合「判定保留」という結果になります。
「判定保留」の場合には、再度採血を行なうか、確定的検査に進むか、検査自体を中止するかなどを考える必要があります。
「陰性」「陽性」と判断する基準
新型出生前診断では、母体から採取した血液の中に含まれる、おなかの赤ちゃんに由来するDNAが増えている割合を調べます。
常染色体の21番目が増えていれば21トリソミー、18番目が増えていれば18トリソミー、13番目が増えていれば13トリソミーの可能性があります。
検査の精度や陽性の確率について。偽陰性はないの?
新型出生前診断の陽性的中率(陽性の結果を受け取り、かつ赤ちゃんが本当に対象の疾患を持つ確率)は年代によっても異なるため、遺伝カウンセリングでの説明を参考にしてください。
また「陽性」と出ても赤ちゃんには病気がない「偽陽性」、「陰性」となっても実は赤ちゃんに対象疾患がある「偽陰性」などの場合もあります。そのため、結果についても その意味をきちんと確認していくことが必要です。
●新型出生前診断で「陰性」だった場合
陰性の結果が出たといっても、それがおなかの赤ちゃんが健康であることを保証するものではありません。
実は、染色体の変化による疾患は赤ちゃんの先天異常のうちの25%にすぎず、しかも、新型出生前診断でわかるのは3つの染色体だけです。赤ちゃんの先天異常には、ほかにも心臓疾患などさまざまなものがあるので、結果が出たあとも妊婦健診をきちんと受けて、母体とおなかの赤ちゃんの状態を確認してもらうことが大切です。
●新型出生前診断で「陽性」だった場合
陽性の結果が出ても、あらかじめ「おなかの赤ちゃんの状態にかかわらず産む」と決めていたり、結果を受けてパートナーと話し合い、産むと決めた場合には、確定的検査は必須ではありません。
確定検査を受けるかどうか、確定検査を受けた後にカップルとしてどのように考えるかなど迷う場合にも「遺伝カウンセリング」で相談することができます。また「遺伝カウンセリング」では、赤ちゃんの病気の専門家である小児科医に相談することもできます。
新型出生前診断の費用はどのぐらい?
新型出生前診断の費用は、おおよそ15万円程度です。
ただし、自費診療のため、検査を実施する病院や施設によって費用が異なるので、検査を受ける病院に確認すると安心です。
新型出生前診断を受ける際に考えておきたいこと
新型出生前診断、どんな病院で受けるべき?
新型出生前診断を受ける際には、「遺伝カウンセリング」を受けられる認定施設である病院などで受けましょう。
2021年3月現在で全国に108施設があり、そのリストは日本医学会のサイトで公開されています。
●日本医学会 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査 「認定施設」について
https://jams.med.or.jp/rinshobukai_ghs/facilities.html
遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが行うもので、新型出生前診断についての知識を提供してくれるだけでなく、そのカップルにとって検査が本当に必要なのかどうかを一緒に考えてくれます。
検査を受けようと考えている方以外にも、「そもそも、やったほうがいいかどうかわからない」「受けようかどうしようか迷っている」などの状況の方も受けることができます。
遺伝カウンセリングは、必ずパートナーと一緒に受けることが必要ですが、最近ではオンラインで受けられる場合もあるようです。お近くの認定施設に確認してみるといいでしょう。
また、遺伝カウンセリングを受けたからといって、必ず新型出生前診断を受けなければいけない、ということはなく、「やはり検査は受けない」という選択をしても、まったく問題ありません。
検査を受ける前に、パートナーと話し合っておいたほうがいいこと
新型出生前診断を受ける妊婦さんの多くは、「陰性という結果を受け取って安心したい」と思っているかもしれません。
でも、検査を受ける以上、「陽性」という結果が出ることもあり得ます。そのとき、自分とパートナーはどうするのか、あらかじめ考えておくことが大切です。
子どもを持ってどういう家族を作りたいのか、子育てとはどういうことなのかなどについて、パートナーとよく話し合っておきましょう。
春以降、新型出生前診断はどう変わる?検査を受けるときの条件は?
これまで、新型出生前診断を希望する妊婦のうち、日本産科婦人科学会が定めた条件(高齢妊婦、胎児超音波検査で染色体の変化による病気の可能性を示唆された妊婦 など)のいずれかに当てはまる人のみが新型出生前診断の対象でした。
【新型出生前診断】年齢に関する制限がなくなり、受けられる施設が増えます
2022年の春からは、新型出生前診断の対象者が広がり、年齢に関する制限もなくなります。35歳以下の妊婦さんでも希望があれば検査を受けられるようになります。
さらに、検査を受けられる施設も増える予定です。
現在、遺伝カウンセリングを含めた新型出生前診断を受けられる病院や施設を今後は「基幹施設」としたうえで、臨床遺伝専門医の資格を持っていたり、研修を受けた産婦人科医のいる施設を「連携施設」として認定していきます。
今回の対象者や施設の拡大について、江川真希子先生はこう話します。
「新型出生前診断、この言葉を耳にすると妊婦さんとしてはとても気になりますよね。けれど、すでに「新型」でもなければ「診断」できるわけでもなくこの言葉は使わない方向になっていますので、言葉に振り回されないで欲しいと思います。
NIPT検査の結果が陰性であっても、あとはすべてがうまくいくというわけではありません。生まれた後に病気がわかることもあります。妊娠をすれば終わりでなく、それから出産、子育てがあるように、出生前検査も1つのステップにすぎませんし、妊婦さん全員が進まなくてはならないステップでもありません。
でも、受けても受けなくてもいいものだからこそ、正しい情報をもって自分が受けるか受けないかを決めることが大切です。遺伝カウンセリングはそのためにあるので、NIPT検査が少しでも気になる場合は、まず遺伝カウンセリングを受けましょう」
●新型出生前診断(NIPT)情報を知っておきたい方におすすめのサイト
遺伝カウンセリングの大切さはわかったけれど、「いきなり遺伝カウンセリングに行くのは、ちょっとハードルが高い」「すぐには時間がとれない」「もう少し情報を知ってから行きたい」という人も多いかもしれません。そんなときは、まず「妊知る.jp」というサイトで正しい情報を確認しましょう。
このサイトは、2013年に新型出生前診断が導入される際に作られた「NIPTコンソーシアム」メンバーなど、出生前診断に詳しい産婦人科医や小児科医、認定遺伝カウンセラーなどの専門家が記事を執筆しています。出生前診断だけでなく、妊娠中のことや出産から不妊症、不妊治療のことなどについての情報も。
「知らなかった」「こんなつもりじゃなかった」と後悔しないためにも、妊娠・出産・出生前診断などについて、今のうちから正しく知っておきましょう。
取材・文/荒木晶子
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医学博士。周産期専門医、超音波専門医、臨床遺伝専門医。2000年広島大学医学部医学科卒業、2009年広島大学大学院博士課程修了。2012年より東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科寄附講座 茨城県小児・周産期地域医療学特任助教、講師などを経て、19年4月より現職。同大学病院で遺伝子診療外来・周産期外来を担当。遺伝子診療外来では主に出生前検査、周産期外来では合併症を持つ妊婦さんや遺伝性疾患が関係する妊娠・出産についての相談を受けている。
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