〈卵子凍結体験談〉最愛のパートナーが見つかった。でも「苦しい」日々が待ち受けていた【中編】
「卵子凍結」とは、将来の妊娠・出産に備えて卵子を取り出して、マイナス196℃で凍結保存しておく最先端の医療技術のこと。
卵子凍結を決断した女性8人の思いや葛藤をまとめた『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』(著者/松岡かすみ・発行/朝日新聞出版)より、卵子凍結をして子どもを授かった倉田さん(仮名/39歳の時、凍結しておいた卵子を使った体外受精で子どもを授かり、40歳で第1子となる男の子を出産)の体験談を、あかほしWEBで特別公開します。
※『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』の一部を抜粋・編集しています。※記事内の画像は全てイメージです(Shutterstock)。
卵子凍結採卵期間にパートナー探し。思い浮かんだのは…
前の話を読む>>35歳、パートナーなし。卵子の質が落ちるって本当?その現実を知って【前編】
3回の採卵手術をした1年弱の間には、出会いに対する心境の変化もあった。いわく、「これまで“もっと良い人が現れる”と思って、傲慢に生きてきてしまったな」という反省だ。この時、“もっと条件の良い人”を探すのはやめよう、と思った。そうではなく、“今の私を良いと言ってくれる人を探そう”、と。そんな思考の切り替えを経て、卵子凍結しながらの、新たな視点でのパートナー探しが始まったのだった。
そんな中、自然と思い浮かんだ男性が、今の夫だ。6歳年下の職場の同僚で、長い付き合いになるが、好感を持って接してくれていると感じていた。「これが最後のチャンス」と勇気を振り絞って、倉田さんからデートに誘った。それを機に交際が始まったのが、2回目の採卵手術後のことだ。
高齢出産のリスクを考えると、「凍結保存したら安心ではなく、産むのも急がないと」という焦りもあった。結婚を急ぎたい思いもあったが、彼を急かしたくはなかった。約1年の交際を経て、倉田さんは思い切って「結婚してくれる可能性ってあるかな?」と彼に聞いてみた。答えは、「YES」。
嬉しかったが、彼には40歳手前の女性と結婚することのリスクや、実際に一緒に暮らすことで生じてくる価値観の違いを十分に理解した上で、結婚を決断してほしいと考えた。そこで短期的にアパートを借り、同棲を試みる。一緒に暮らしてみて、彼が「違う」と思うなら、自分から堂々と去ることができるようにしたかったからだ。

この時、倉田さんが39歳、彼は33歳。彼は「子どもは自然に授かるだろう」と疑っていないところがあり、「ああ、この人は“39歳の女性と結婚することのリスク”を分かってない」と思ったという。
彼から出た言葉は「人工的なやり方は嫌だ」だった
二人の間で「結婚しようか」という話が出た辺りから、婚姻届の提出を待たずして妊活をスタートしたのは、「この年齢で自然に妊娠するのは難しい」というのを彼に分かってもらうためでもあった。市販の排卵チェッカーで排卵日を予測し、タイミング法を数カ月間試すところからスタート。
「また生理が来たよ。私の歳で自然妊娠するのは難しいことなんよ」と彼に言うことが続く。何度かタイミング法を試してみて妊娠しないのは、倉田さんにとっては折り込み済みの展開だった。年齢に加え、生理不順で基礎体温の高温期が続かないため、受精・着床しづらい状態であることも分かっていたからだ。
凍結している卵子があることは、交際時から彼に話していた。その卵子を使って、彼の精子と合わせて受精卵をつくり、「体外受精で妊娠するしか方法がないと思う」と、ある時彼に話した。一般的に、タイミング法の次のステップは人工授精になるが、体外受精よりも確率が低いとされているのは前述した通り。年齢を考えると「そんなことやってる場合じゃない」と思った。
ところが、彼の反応はこうだった。
「人工的なやり方は嫌だ」「自然に授かるのを待とう」――。彼は、卵子凍結や体外受精など、生殖医療全般に抵抗感を持っていた。
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