2ページ目(2ページ中) | 〈卵子凍結体験談〉最愛のパートナーが見つかった。でも「苦しい」日々が待ち受けていた【中編】
彼の気持ちもわかるから、苦しい
どちらが良い悪いという話ではなく、そう思うこと自体は仕方がないし、どうしようもない。話し合いは平行線で、彼からは「人工的な技術を使って生まれた子どもをちゃんと愛していけるか分からない」「人工的なやり方をするぐらいなら、子どもがいなくてもいい」という言葉さえ出た。
その時、どんな気持ちだった?
「もちろんショックでしたが、そこで打ちのめされている場合じゃなかった。だから説得を続けました。“凍結保存している卵子は、今の私より若い”“精子をカップに出してクリニックで受精してもらう、それが一番妊娠できる確率が高い”って。彼に話しながら、なんて人工的なやり方なんだと自分でも思ったけど、背に腹は代えられないという感じでした。
もともと私も、できれば自然に授かりたいという思いはありましたから。でもそれが難しいとなると、子どもを授かるには生殖医療を頼るしかない。それを何とか分かってほしいと、彼への説得を続けたんです」
その傍らで、じわじわと広がったのが、「私は彼に、なんて自分勝手な誘いをしてしまったんだろう」という後悔の念だ。もちろん最初のデートに誘った時、彼に対して好意を持っていたのは間違いない。ただ同時に、「私と結婚してくれる人がほしい」という気持ちで誘ったことも、また事実だった。彼への愛情が募るにつれ、自分の気持ちと願いを彼に押し付け続けていることを心苦しく思うようになった。

30代前半の彼は、自分から「子どもがほしい」とは言わないが、根っからの子ども好きなのは一目瞭然だった。彼が自分の口から「子どもがほしい」と言わないのは、倉田さんの年齢を気遣ってのことだと分かっていた。そういう優しさや配慮を持った人だから、愛情が深まっていったところも大きい。
そんな彼が、姪っ子や小さい子どもと思いっきり楽しそうに遊ぶ姿を前に、「この人に、子どものいない生活をさせたくない」と心底思った。私と結婚することで、もしかしたらこの人の人生は、子どものいない人生になってしまうかもしれない。もし私に子どもができなかったら、彼の子どもを残せない。もし彼の子どもを残せなかったら、私は、その後悔をずっと背負うのではないか――。その葛藤は、想像をはるかに超えて根深いものだった。
「ほんまに苦しかったです」
倉田さんは、当時を振り返って、遠い目で呟いた。
最終的には体外受精を選択。でも…
その後も、自然妊娠しないストレスや、凍結卵子を使った体外受精に対する意見の食い違いで心身ともに疲れていった。悩んだ末に振り絞った結論が、「もし私が出産できたら、結婚してほしい」という言葉だった。
子どもを産めたら結婚する、産めなかったら私と結婚するのではなく他の相手のところに行ってもいい。彼を思って絞り出した、倉田さんなりの一つの結論だった。その言葉を静かに聞いていた彼は、「僕は子どもを産んでくれる人と結婚したいわけじゃない」と、ぽつりと言った。
「子どもはできてもできなくても、それでいい。結婚しよう」
嬉しかった。だが同時に、愛するが故のプレッシャーも背負った。その後、“人工的なやり方”で子どもをつくるかどうかの議論は、最終的には倉田さんの熱量に押される形で、彼が折れることになる。
「最大限協力するから、好きなようにしたらいい」「気が済むまでやってみたらいいよ」自分の本心は脇に置いて、私の気持ちに寄り添ってくれたと思った。心から感謝したが、「寄り添わせてしまった」という複雑な感情も残った。
続きを読む>>〈卵子凍結体験談〉凍結卵子26個のうち着床した受精卵は1個。「卵子凍結を選択してよかった」【後編】
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