2ページ目(2ページ中) | 〈卵子凍結体験談〉凍結卵子26個のうち着床した受精卵は1個。「卵子凍結を選択してよかった」【後編】
凍結卵子は残り7個。第二子を希望していたけれど
第二子を考え始めたのは、出産して間もないタイミングだ。とにかく「時間がない」という感覚が強かった。しかし、帝王切開での出産であったため、最低1年間は妊娠しないよう医師から指導を受けていた。
1年前の体外受精の際につくった受精卵を、あと7個凍結してある。凍結卵子を融解して、精子と受精させ、受精卵にして再び凍結したものだ。2人目を産みたいなら、急いだ方が良いと夫婦で話し合い、出産から約1年で再び、凍結していた受精卵の胚移植を行った。だが7個の受精卵は全て、出産には至らなかった。複数回、胚移植を行ったうち、妊娠反応が2回出たが、いずれも胎児の心拍が確認できず流産に終わる。
「もっと若い時に卵子を凍結していれば、第二子、第三子を望めたのかもしれない。卵子も自分と同じように老化する。年齢には勝てないなと思いました」
同時に、我が子が1回目の胚移植で妊娠し、元気に生まれて育っていることは本当に奇跡だと実感したという。
一連の過程を経て「卵子凍結って、万能なものじゃない。本当に、ただの保険なんだな」ということを実感した。数で結果を振り返れば、26個の卵子を凍結し、融解して精子と受精させ、受精卵になったのが8個。出産に至ったのは、そのうち1個のみだった。
「私は運良く、1個が出産につながったけど、そうじゃない人もたくさんいるはず。不妊治療で、妊娠という出口が見えない闇の中を歩き続けて、最終的に治療を断念し、子どもを授からない人もたくさんいる。私はたまたまラッキーだっただけ。私の例が卵子凍結後の当たり前の結末と考えてほしくありません」
加えて、倉田さんが声を大にして言いたいのは、高齢出産の現実だ。例えば、30代後半〜40代というと、職場では中堅世代。管理職など、責任ある立場を任される人もいる。倉田さんも同様で、残業が多い忙しい部署で、重要なポストを担っていた。そのため妊娠中とはいえ、周りが残業する中で帰れないという思いもあり、「だいぶ無理をして、夫にも心配させてしまった」という。
幸いにも、切迫流産以外は大きく体調を崩すことなく出産を迎えられたが、責任ある立場で迎える妊娠・出産への葛藤を感じる場面も多かった。
卵子凍結をして、今思うこと
「今、卵子凍結を考えている人に私が言いたいのは、凍結していることに安心して、無為に時を過ごさないでほしいということ。高齢出産のリスクを知り、できるだけ早く出産することと、妊娠後のビジョンも持っておくことが大事だと思います。私は妊娠をゴールにしていたから、赤ちゃんとの生活のイメージを全然持っていなくて、こんなはずじゃなかったと思うことの連続でした。産休・育休の期間はどうするのか、産後の仕事はこれまで通りのペースで続けるのか、どこに住むのか、誰にサポートしてもらうのか、妊娠してから慌てて考えました。
歳を取ってから産むこと、仕事をしながら育児をすることっていろんな面で大変なことが多い。子どもとの生活は全く思い通りになりません。私は実家が近くて頼れる人が周りにいるから、まだ助かったけど、周りからのサポートがないととてもやっていけなかったと思う。今考えると、2人目が産まれていたら、自分がパンクして潰れていたかもしれない」
倉田さんにとって、卵子凍結はどんなものだった?
「人生で最高の選択でした。なぜなら凍結してなかったら、私は自分の子どもに会えてないと思うから。

子どもを授かったことで、自分の成長にもつながったし、知らなかった社会の仕組みや世間の優しさも知ることができたし、自分の世界が広がった。それまで自分中心に生きてきたことが180度変わって、人のことを中心に考えられるようになり、我慢強くもなったと思います」
『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』より、卵子凍結体験談をご紹介しました。本書には、倉田さんのエピソードを含め8人の女性のお話、そして、著者である松岡かすみさんの体外受精の記録についても綴られています。「卵子凍結」のリアルについて知りたい方は、ぜひチェックしてみてください。
最初から読む>>〈卵子凍結体験談〉35歳、パートナーなし。卵子の質が落ちるって本当?その現実を知って【前編】
『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』

年齢、キャリア、生い立ち、それぞれに違う彼女たちだが、どうして最先端の生殖医療技術である「卵子凍結」をしたのか?元週刊朝日の記者が描く力強さ溢れるヒューマンストーリー。(著者/松岡かすみ・発行/朝日新聞出版)
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