不妊治療と仕事、どう両立?兵庫の支援条例から見えた“寄りそい”の形|治療経験者が『不妊治療と仕事の両立支援フォーラム』をレポート(兵庫県連携事業)
2025年7月・兵庫県で「不妊症等に関する支援推進条例」が施行されました。その条例制定を受けて、12月に神戸市内で開催された『ひょうご仕事と生活センター ワーク・ライフ・バランスフェスタ2025 不妊治療と仕事の両立支援フォーラム』。
筆者をふくむ、不妊治療経験者3名で参加してきました。感想とともに、レポートします。

不妊症・不育症の治療、自治体のサポートって?
「不妊症等に関する支援推進条例」は、不妊症等の当事者が抱える課題解決を目指し、治療・相談・両立支援・啓発などを包括的に推進するため、基本理念や関係者の役割などを定めた全国初の条例です。
今回開催された『ひょうご仕事と生活センター ワーク・ライフ・バランスフェスタ2025 不妊治療と仕事の両立支援フォーラム』で、冒頭の挨拶に立った兵庫県の齋藤元彦知事は「多様な人材が働き続けられる社会を」と話し、自身の不妊治療経験にも触れました。条例が兵庫県で生まれた背景に、自治体トップの問題意識が反映されているということに驚きと深い納得がありました。

不妊治療の “コントロールできない部分”を知ってもらう
「生理周期などに合わせての急な通院も多く、職場の理解が不可欠だと思います」(野曽原さん)
「不妊治療を含めた休暇を“その他休暇”に。気兼ねなく取得してほしいです」(門脇さん)

イベントの中心となったのは、「不妊治療と仕事の両立支援の取組」をテーマにしたパネルディスカッションです。
神戸大学の庭本佳子准教授が進行を務め、NPO法人Fine理事長の野曽原誉枝さん、兵庫県加東市に拠点を構えるアスカカンパニー株式会社の門脇弘朋さんが登壇しました。
不妊治療経験者でもあり、不妊・不育症当事者のサポートを行っている野曽原さん。

NPO法人Fineは20年以上に渡って治療の有無にかかわらず当事者の精神的ケアを中心に行ってきました。今回のパネルディスカッションでは、治療当事者の目線にいちばん近いであろう野曽原さんの発言には、個人的にいちばん注目していました。
野曽原さんのお話は下記のような内容から始まりました。
「ただ当事者だけをケアしていても、結局その方の周りに理解している人がいなければ“ケアしきれないところまで来ている”と感じました。そこで、不妊治療とは? 不妊治療ではどんなことをするかなど、お伝えする活動を始めました」(野曽原さん)
当事者だけを支えても、職場や地域の理解不足があると再び当事者本人の孤立が生じることがあるという課題に直面。周囲の人や行政・企業への啓発にも活動を広げてきたそう。
筆者である私自身、不妊治療当事者として“不妊治療は理解されないだろう”、 “うまくいくかわからないチャレンジを公にしたくない”という思いのもと、職場には治療の事実を伝えなかったので両立が困難な場面が何度もありました。
だからこそ当事者以外へと周知を広げるという野曽原さんの活動に、当事者ケアの新しいアプローチ方法だと、視点が変わるような新鮮な思いを感じました。

また、不妊治療についての現実については
「不妊治療は年齢や個人差が大きく、誰もが妊娠するわけではなく、長期化するケースも多いんです。治療には身体・精神・経済・時間の4つの負担があり、特に働きながら通院する時間的負担は大きいものです。生理周期などに合わせての急な通院も多く、職場の理解が不可欠だと思います」(野曽原さん)
と話されました。この野曽原さんのお話は、この日来場していた企業経営者のみなさんにぜひ伝わってほしいと感じた部分です。

そして、野曽原さんの「職場の理解が不可欠だと思います」という先ほどの言葉を受け、実際に社員を雇用する側のアスカカンパニーの門脇さんより、企業として行っている具体的な不妊治療の支援策が紹介されました。

「兵庫県の加東市を拠点に、従業員254名、子育て世代が全体の約35%を占めています。社員のライフステージや家庭環境によって、時短・スライド勤務・テレワークなど柔軟な働き方を個別に設定しています」(門脇さん)
そういった取り組みが実を結び、男女とも育休取得率100%を実現。社員同士のフォローができる体制を整えたうえで、多様な働き方を日常的に運用しているそう。
門脇さんのお話で、さらに驚いたのは「不妊治療休暇」を制度化していること。
「介護・看護休暇や生理休暇、不妊治療を含めた休暇を“その他休暇”という言い方で、気兼ねなく取得して利用率を上げていきたいと思っています」(門脇さん)
現在すでに「不妊治療休暇」を制度化しているアスカカンパニー。運用中の生理休暇を拡大する形で「その他休暇」として設けられたもの。今後は県の事業を活用し、社内周知と従業員の理解促進を図り、取得しやすい環境づくりを進めたいとのことでした。
実際に不妊治療をしている人を支援する社内制度について具体例が語られると、登壇者同士も深くうなずき、会場には「不妊治療と仕事の両立支援」を自分ごととして捉え直す静かな余韻が残ったように感じました。

このパネルディスカッションを通して、私が特に心に残ったのは野曽原さんの言葉です。
「不妊治療に限らず、物事には自分でコントロールできる部分とできない部分があります。
不妊治療で言うならば自分がどのように仕事をしたいか、どう治療していきたいのか、あとは職場とのコミュニケーションをどのように取るのか、もしくは不妊治療をしていることを言いたくないのかというところは自分でコントロールできるところです。
コントロールできないのは急な治療のスケジュールや治療による体調の変化ですよね。もし周りとコミュニケーションを取りたいという気持ちがある、または周囲に伝えないと仕事に支障が出る状況にある場合は、そのコントロールできない部分を周りに知ってもらうことが大事かなと思います」(野曽原さん)
忘れがちですが、不妊治療には自分で決められること、そうではないこともある。それをしっかりと認識することが、治療と仕事の両立をスムーズにするために当事者ができることの一つと言えそうです。
不妊治療を始めると、治療に専念したいと考える一方で、保険適用になったとはいえまだまだ高額な治療費の支払いのためであったり、自身のキャリアや社会との接点を大切にしたいと思い、治療と仕事を両立したいと考える女性は少なくないはず。
治療しながらも何かを諦めることなく、進んでいけることが何より求められていくのだなと感じました。

治療の当事者として“自分で選択する”ことも重要
イベント終了後、野曽原さんと門脇さんにお話を聞くことができました。

――アスカカンパニーさんの「不妊治療休暇」の制度は本当に心強く、また斬新に感じました。
門脇:実は社内の飲み会で、男性社員から「不妊治療をしている」と相談されたんです。不妊治療は女性が大変というイメージでしたけど、男性にもいろんな悩みがあると知りました。そういう社員の声にどんなアクションで応えたらいいかを考えてできたのが、不妊治療休暇の制度です。
ただ、枠組みを作ったものの、なかなか制度を利用してもらえずどうしようかと」思っていた時、兵庫県で「不妊症等に関する支援推進条例」が施行されました。これをきっかけに、企業としてまた考えていくつもりです。

野曽原:先日、アスカカンパニーの社員さんに向けて講演をさせていただく機会がありました。参加した社員さんからは、不妊治療に対して知らないことだらけだったという声をたくさん聞きました。しかし、不妊治療にまつわる色々は、介護や家族の病気の時の看護などに置き換えれば自分ごとになることがたくさんあります。何事も自分ごととして考えるのは大事ですよね。
――不妊治療休暇というアイデア、会社がすごく柔軟に対応されているなと感じました。
門脇:働き方や子育てや介護などいろいろなこととの両立支援という観点から、会社として様々な取り組みを続けていることがあったのでそこはスムーズでしたね。

――野曽原さんの自分でコントロールできない部分を周りに知ってもらうというお話も、すごくうなずけました。
野曽原:ただ、話すだけが全てではなくて治療の当事者として自分で選択することが大事だと思うんです。周りに言うか、言わないか。言うなら誰にどこまで話すのか。話さないならば、協力を得られないこともあるかもしれません。
そういうことをイメージしながら不妊治療と仕事、多くの選択を自分でできるということを知ってもらえたらと思います。

不妊治療と仕事の両立、それぞれの立場で考えたこと
フォーラムに参加した不妊治療経験者の2人に率直な感想を聞きました。

多様な選択肢がある中で、本人がのぞむ形に沿うことが大事
えりさん(不妊治療1年半・体外受精)
「兵庫県は海も山もあり、とても子育てしやすい県です。また、評判のいい不妊治療クリニックもたくさんありますよね。私も兵庫県在住の県民として感じています。そういった状況の中で、不妊治療に対して国の保険適用だけでなく、県からも助成金があることは本当に心強いことだなと思います。当事者の人にもっと伝わるべきことですよね。
治療と仕事の両立に関しては、かつての治療当事者であっても、現在治療している方の目線に立つことの難しさや配慮しすぎることで生じるひずみなど、新たな発見がたくさんありました。子どもを持つ、持たない、勤務先に知らせる、知らせないなど多様な選択肢がある中で、本人がのぞむ形に沿うことが大事になってくるのだなと感じました」

「伝え続けること」の大切さを実感したフォーラム参加
ゆうさん(治療のために退職経験あり・体外受精)
「私は仕事をしながら妊娠→子宮外妊娠、翌年2回目の妊娠→流産、となってしまい、仕事をやめて、妊活に専念しました。その後、妊活に専念しても妊娠することはなく、仕事に復帰しながら治療は続けることになるのですが…。そして今は、部下もいる立場にいます。
私が治療をしていた頃と比べると、治療が保険適用になり治療へのハードルは下がったのかなとは思います。しかし、意識という意味ではほとんど変わっていない気がします。一朝一夕には変わらないことだからこそ、こうして伝え続けていかなければならないのだと、フォーラムに参加して実感しました。
講演の中にあった「女性従業員に対する偏った配慮が、かえって女性活躍を妨げる」という話は意外でした。あらためて、女性が働くということは難しく根深い問題をはらんでいると感じました。今回のフォーラムに来場していた方の多くは、40~50代の管理職と思われる男性がたでしたが、女性ももっと関わらないといけないとも思いました。
アスカカンパニーさんの社内整備の話も参考になりました。私のいる会社は社員数7人の小さな会社なので、相談があればできるだけ希望に沿った対応をしたいと思っています。不妊治療は女性だけの問題ではないので、男性から相談があった場合もきちんと対応したいですし、私に相談できなくても他の男性が対応できるような関係づくりを普段からしていくことは大事にしたいなと、改めて考えるきっかけにもなりました」
兵庫県の条例施行は、不妊治療と仕事の両立を社会がどう支えるかを考える大きな一歩であることを改めて知ることができました。そして、不妊治療が特別なことではなく、当たり前の選択として受け止められる社会の実現に向けて、今回のフォーラムは多様な立場の声を共有し、その未来に向けた大切な対話の場だったように感じます。
※本記事は、兵庫県が推進する事業の一環として、県との連携により取材・制作しています
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