子宮内膜がまだ厚くなっていない時期や、子宮内膜がはがれて月経血として排出される時期などを“窓が閉じている”、子宮内膜が厚くふかふかになって着床に最適な時期を“窓が開いている”と考えます。
タイミングをとって受精しても、子宮内膜が着床できる状態ではない=窓が開いていない状態だと妊娠に至りません。また、体外受精で胚を子宮に移植する日と窓が開いている期間がずれていると着床しなかったり、着床してもごく初期に流産してしまうこともあります。
通常、この「着床の窓」は、排卵後4~6日目ごろに開かれると考えられています。
ただし、人によってそれより早い時期に開いてしまったり、それより遅い時期にならないと開かなかったり、どのくらいの期間窓が開いているかにも個人差があるといわれています。体外受精で良好な胚を移植してもくり返し着床しない「反復着床不全」の場合、約30%が着床の窓がずれていたという報告もあります。
たとえば、不足しているホルモンを補う「ホルモン補充周期」での胚移植の場合、当クリニックでは、通常は黄体ホルモン(プロゲステロン)の腟錠をスタートしてから約120時間後に胚移植を行なっています。しかし、「着床の窓」が120時間より早く開いたり、遅く開いたりしている場合には、120時間では着床しない可能性もあるのです。
「着床の窓」は、いつ開く?時期を知るには?
「着床の窓」は、ERA(子宮内膜着床能)検査で知ることができます。この検査はホルモン補充周期と同じように、月経1~3日目に卵胞ホルモン(エストロゲン)の補充をスタートし、月経12日目ごろに採血でホルモンの値を確認するとともに、超音波検査で子宮内膜の厚さを見ます。
そのあと、黄体ホルモンの腟錠をスタート。そこから約120時間後に子宮内膜の組織を採取して調べます。そのため、この周期には胚移植はできません。採取した組織は検査機関に送るので、検査結果がわかるまで3週間程度必要です。ERA検査は自然周期でも検査することができます。
ERA検査は残念ながら保険診療ではなく自由診療ですが、「先進医療」として認められている検査です。先進医療とは、まだ保険診療にはなっていない先進的な検査や治療法。一つの医療技術ごとに一定の施設基準が設定されていて、その基準を満たしている保険医療機関が届け出をすることによって、保険診療との併用(保険外併用)ができるようになります。
東京都の場合、先進医療にかかった費用の一部を助成する「東京都特定不妊治療費(先進医療)助成事業」を行なっています。この制度では、患者が申請することによって、先進医療にかかった費用の10分の7について、15万円を上限に助成されます。
関連リンク>>東京都特定不妊治療費(先進医療)助成事業の概要
東京都では、これ以外に港区や中野区などの自治体で、東京都からの助成金を除いた額を対象にした助成制度があります。そのほか、兵庫県で先進医療とその通院にかかる費用の一部、大阪市で先進医療にかかる費用の一部など、各自治体で助成制度を設けていることがあります。先進医療を受ける際は、居住地の自治体ホームページで確認しましょう。
「着床の窓」が標準とずれていたら、どうすればいい?
ERA検査で「着床の窓」が標準的な期間とずれていた場合には、胚を子宮に戻す時間をERA検査の結果に沿って調整することで、着床率を高められます。通常よりも早く着床の窓が開くとわかった場合は、腟錠をスタートしたあと、通常の120時間より早く胚を子宮に移植し、逆に通常よりも遅く着床の窓が開くとわかった場合には、腟錠スタート後に120時間以上経過してから胚を子宮に移植します。
取材・文/荒木晶子
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