早発卵巣不全(早発閉経)って?妊娠できるの?第一人者の石塚文平先生に聞いてみた!【産婦人科医監修】
40歳未満で閉経状態になることを「早発卵巣不全(POI)*」、または「早発閉経」といいます。妊活中に発見されることがあり、これから妊活を始めようと思っている人、いつかは子どもを持ちたいと考えている人にも、ぜひ知っておいてほしい症状です。
世界でも数少ない早発卵巣不全治療の第一人者、ローズレディースクリニック院長・石塚文平先生にお話を聞きました。
*POI:Premature Ovarian insaficiency(早発卵巣不全)
早発卵巣不全はどうして起こるの?
日本人の平均閉経年齢は約51歳で、早い人では40代後半、遅い人でも55〜56歳に閉経を迎えます。40歳よりも前に閉経状態になることを早発卵巣不全といいます。閉経すると卵子がなくなり、妊娠できなくなります。
卵子(原始卵胞)の数は、生まれたときには決まっていて、生涯増えることはありません。卵子の数は、お母さんのおなかの中にいる胎児のときが最も多く約700万個、誕生時は約200万個、月経が始まる思春期には約50万個、そして閉経時には約2,000個に減少します。
卵巣に保管された原始卵胞は、正常では毎月数100個が自動的に発育開始し、その後性腺刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモン(FSH)の働きによって複数が成熟し、そのうち1個が排卵します。毎月、毎日、卵子は減っていくのですが、正常であれば加齢とともにゆるやかに減少して、やがて閉経を迎えます。ところが早発卵巣不全では、通常より急激に卵子が減少して、早く閉経に至ります。また、先天的に月経が起こらない原発性無月経も早発卵巣不全とされます。
早発卵巣不全の診断のポイントは?
FSHの数値が高い場合、また卵巣にどれくらいの卵子が残っているかの目安となるAMH(抗ミュラー管ホルモン/アンチミュラリアンホルモン)の数値が年齢の平均値よりも低い場合は要注意です。
すでに月経不順、また長期間にわたり月経が起こらない場合は、卵巣機能の低下が進んでいる可能性が高く、妊娠を希望するなら早く産婦人科を受診しましょう。
早発卵巣不全の診断のポイント(40歳未満)
●FSH値:25U/ml以上
●AMH値:0.02ng/mlで早発卵巣不全、0.1ng/ml未満でも注意を
早発卵巣不全になる割合は?
早発卵巣不全が起こる頻度は、29歳までは1,000人に1人、39歳までは100人に1人、最近、欧米では2%近くが40歳までに閉経するデータも出ており、実際は1%より発症頻度は高いと思われます。44歳では22人に1人といわれます。40~44歳で閉経すると早期閉経といいます。
数十年前までは、30歳までに子どもを2〜3人産んでいる女性が多く、早く閉経しても妊活の面では大きな問題はなかったのです。ところが、近年は晩婚化、晩産化が進み、「妊活しようと思ったときには卵巣機能が低下していた」という事態が頻発し、問題になっているのです。
早発卵巣不全が起こりやすい人は?
早発卵巣不全では、卵巣における卵子数の減少が加速していると考えられます。それにより、女性ホルモンであるエストロゲンの欠乏、精神的ストレス、不妊などが起こります。
早発卵巣不全のリスクとなるものは?
また、早発卵巣不全のリスクとなるものとして、以下が挙げられます。
先天的な病気
染色体異常によるターナー症候群の場合、生まれつき卵巣機能が低下しているのが特徴。月経が起こらない原発性無月経の人が多く、月経があっても早く閉経します。
がん治療
卵巣は抗がん剤、放射線治療の影響を受けやすい臓器です。がん治療によって高率に早発卵巣不全がおこります。がん治療の成績があがるとともにがん治療後の早発卵巣不全の女性が増えています。
卵巣の手術
卵巣嚢腫(のうしゅ)の手術をすると卵巣がダメージを受けて、卵巣機能が低下する可能性が高くなります。
感染症
卵巣は熱に弱く、おたふく風邪などで高熱が続くと卵巣機能に悪影響を及ぼします。また、子どもの頃の盲腸手術などが原因で腹腔内に炎症が起きて、卵巣機能が低下する場合があります。
甲状腺の病気等の自己免疫疾患
膠原病、甲状腺の疾患やリウマチなどの自己抗体が早発卵巣不全に影響すると考えられます。自分だけでなく、家族に罹患者がいれば気をつけましょう。
喫煙
タバコを吸う女性は、そうでない女性よりも閉経が2年早いという調査結果があります。喫煙すると血流が悪くなるので、卵巣の血流も低下し、卵子が早く減ると考えられます。
早発卵巣不全でも妊娠・出産できる可能性はどれくらいあるの?
早発卵巣不全の場合、妊活は時間との戦いなので、一刻も早く適切な治療をすることがたいせつです。若ければ加齢による卵子の質の低下は少ないため、排卵があれば妊娠の可能性は十分あります。
染色体異常ではない特発性早発卵巣不全で、卵巣の手術経験がない人の場合、当院では35歳までの女性では3割が妊娠し、24%が出産に至っています。多くが、すでに無月経になって2~3年以上経っていた方です。また、自然な月経がない期間が1年以内の場合では、正常卵巣機能(妊娠可能)の方と、ほぼ同様の治療成績を収めています。
無月経の場合、排卵を促す治療を行いますが、個々に違う患者さんの状況を見極めた上で治療を開始します。おもな治療は排卵誘発剤の投与で、注射の量や期間を調整する独自の「ローズ式」卵巣高刺激法を実施しています。
また、必要に応じて、原始卵胞体外活性化法(IVA)や、ご自身の多血小板血漿(PRP)を卵巣に注入する卵巣活性化療法を取り入れます。
早発卵巣不全を見落とさないために気をつけること
前出の早発卵巣不全のリスク要因があれば、産婦人科でFSHやAMHの検査を定期的に受けることをおすすめします。
月経周期の乱れがサインの場合もあります。一般的に閉経前には月経周期が短くなり、その後は間隔が長くなることが多いのですが、それまで定期的だった月経が突然止まるケースもあります。月経が数ヶ月こない場合は、産婦人科を受診しましょう。
また、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)や大量の汗をかくといった症状が出た場合は、卵巣機能が低下している可能性があり、早期の受診が必要です。
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月経不順でピル服用を始めた人は注意を
月経不順でピルの服用を開始した人は、定期的に卵巣機能のチェックをしましょう。ずっと続けて服用していると、その間に卵巣機能が低下してもわからないからです。
1〜2年に1度、3ヶ月ほどピル服用を休んで、その間に自然に月経があるかどうかを見極めます。月経があれば、基本的には排卵があると考えられます。また、通院先でFSHやAMHを検査してもらうといいでしょう。
子どもを望む女性へ石塚先生からのメッセージ
早発卵巣不全は、以前には治療法がなく、患者さんは現実を受け入れるしかありませんでした。若いにもかかわらず妊娠の可能性が絶たれるのは精神的につらいことです。しかし現在は、早く気づいて適切な治療をすれば妊娠が可能です。そのためには、妊娠を望む前の早い時期から、多くの人が早発卵巣不全について知っておくことがたいせつです。
子どもを望む場合で、月経不順かつ前出の早発卵巣不全のリスクがある場合は、早めに産婦人科を受診しましょう。FSH値が高い、AMH値が低い場合は、すぐに妊娠へ向けた治療を始めるのが賢明です。
ただし、早発卵巣不全がなくとも女性の妊孕性(自然に妊娠する能力)は37歳頃より急速に低下し、40歳以上では非常に低くなります。女性のライフプランはぜひこのことを考慮して立ててください。
当院では、将来的に妊娠を考えている女性に向けて、ホルモン検査も含めたブライダルチェックを行っていて、AMH検査を追加することも可能です。こうした検査を定期的に受けることも、将来の妊娠への準備といえます。
取材・文/高井紀子
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