子宮内に胎嚢(たいのう・赤ちゃんを包む袋)は見えるものの、その中に赤ちゃんの成分(胎芽や卵黄嚢など)がない状態を、SNSなどで「胎嚢が空っぽ」と表現しているのでしょう。胎嚢は妊娠4週後半~5週で確認できますが、確認できた次の検査で、胎嚢はあっても心拍や赤ちゃん(胎芽)が確認できないということです。
これは、受精卵が着床して妊娠が成立し、胎嚢もできたけれども、赤ちゃんが育ってこない状態です。自覚症状がないまま流産してしまう「稽留流産」で、不妊治療をした人でも自然妊娠の人でも起こります。
とてもつらいことですが、子宮内に胎嚢などが残っていると出血や腹痛、感染症などの心配があるため、自然排出か流産手術のどちらかを選んで処置することになります。自然排出を選んだ場合、8~9割の人は2週間以内に排出されるでしょう。
「9週の壁」とは、流産が多い時期のこと
妊娠初期に確認できていた赤ちゃんの心拍が、9週以降の検査で確認できなくなり、流産となってしまうことがあります。こうした流産が起こるのは9週前後がとても多く、この時期を乗り越えれば、まずは早期流産の確率が下がることから、「9週の壁」という言葉が生まれたと考えられます。
実際に、流産全体の約90%が妊娠12週未満に起こる早期流産です。そして、妊娠週数が進むにつれて流産が起こる確率は低くなっていきます。
「9週の壁」は越えられる?
妊娠9週ごろに起こる稽留流産は、染色体異常が原因であることがほとんどです。染色体異常は偶発的に起こるもので、予防(回避)法や治療法はないため、「9週の壁」を乗り越える有効な方法もないのが現状です。
そして、流産になってしまったのは、お母さんの行動や生活習慣のせいでもなければ、体質や遺伝などが関係しているわけでもありません。「9週の壁」が乗り越えられるかどうかは、赤ちゃんの生命力次第という面も大きいものです。どうか自分を責めたりしないでほしいと思います。
「流産経験者の8割は5年以内に出産している*」というデータもあります。まずはパートナーと気持ちを共有し、精神的にも身体的にも落ち着いてから、今後の妊娠を考えましょう。
*Smith LF, Ewings PD, Quinlan C. Incidence of pregnancy after expectant, medical, or surgical management of spontaneous first trimester miscarriage: long term follow-up of miscarriage treatment (MIST) randomised controlled trial. BMJ. 2009 Oct 8;339:b3827. doi: 10.1136/bmj.b3827. PMID: 19815581; PMCID: PMC2759436.
取材・文/村田弥生
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