アンケートから見えてきた不妊治療の「辛い」トップ5!妊娠報告、治療のこと、仕事との両立…体験談【専門家監修】
不妊治療中や妊活中は治療そのものの苦労も大きいけれど、メンタル面でのダメージも少なくありません。妊活メディア「赤ちゃんが欲しい」が妊活経験のある女性を対象に行ったアンケートでも、精神的に辛かったことの体験談が数多く寄せられました。その悩みに共感する仲間がいます。決してあなただけではありません。
とはいえ、辛い気持ちを抱えて押しつぶされそうになることもあるかもしれません。東京リプロダクティブカウンセリングセンター代表・生殖心理カウンセラーの平山史朗先生からは、気持ちを少しでも軽くするためのアドバイスをもらいました。
痛い不妊治療トップは卵管造影検査。それと同じくらい辛いのはメンタル面
あかほしでは「不妊治療で痛かった検査や治療」についてのアンケートを実施。450人以上の方から回答をいただきました。
【アンケートの概要】妊活メディア「赤ちゃんが欲しい(あかほし)」編集部では、あかほし会員、妊活経験のある女性を対象にInstagram、X(旧Twitter)にて「不妊治療で痛かった検査や治療」についてアンケートを実施し、450名以上からご回答いただきました。(2023年11月実施)
<450人以上に大調査!不妊治療で痛かった検査や治療は?>
※複数回答を含む
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1位は「子宮卵管造影検査」という結果でしたが、僅差で「メンタル面」が2位に!この結果からも不妊治療では、痛みや身体的な負担とともにメンタル的に負担が大きいものだということがわかります。
今回は、アンケートで「メンタル面が“痛かった”」と回答した方から寄せられた声をご紹介します。
312人が不妊治療はメンタル面が“痛い”と回答!不妊治療で辛かったことは?
不妊治療これが辛い①:まわりの妊娠・赤ちゃん
おめでたいことだけど、「なんで私は…」という気持ちが先に立って複雑な心境に。手放しで喜んであげられない自分にもモヤモヤ…。ストレスを感じてしまう人が多いようです。
【不妊治療を経験した人の声】
●友だちの妊娠報告にも素直に「おめでとう」と言えなくて、なんて自分は心の狭い人間なんだろうと落ち込んだりしました(みゆさん/30歳)
●妹2人のダブル妊娠。これほど辛い時期はなかった。(Sさん)
●妊婦さんを見るのも辛かったです。(Cさん)
●自分よりあとに結婚した人の妊娠出産報告。(Mさん)
●職場に公表して休みをもらいながらの治療中、後輩が立て続けに2人も妊娠。たまごが育たないとか、自己注射がツラい時期に余計ツラい…。(Kさん)
●インスタのストーリーズが友だちの子どもだらけになり、子持ちの友だちのアカウントはミュートしました…。(Mさん)
●不妊治療をしていることを話したのに友だちから毎年来る子どもの写真付きの年賀状がしんどいです。(Pさん)
●はじめての体外受精の移植で子宮外妊娠をして、右の卵管を切除する緊急手術を受けたときです。隣の部屋から新生児の産声が聞こえてきて、まさに天国と地獄でした。(あきさん/44歳)
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平山先生からのアドバイス「感情に良し悪しはありません。判断しているのはあなた」
妊活・不妊治療中、“黒い気持ち”が出てきてつらいという声をよく聞きます。他人の幸せを素直に喜んであげられない自分に嫌悪感を覚え、“心のせまい人間”と責めてしまう…。皆さん、ご自身に対してとても厳しく接しているように感じます。
もちろん本質的な話をすれば、他人と自分を比べることには何の意味もありませんから、比べることをやめればいいのですが、それが簡単ではないからつらいわけです。ですから、ここでは“黒い気持ち”とどのようにつきあうかについてお伝えしたいと思います。
まず、“黒い気持ち”自体は良くも悪くもないものだということを認識しましょう。本来、感情に良し悪しはなく、それを判断しているのはあなた自身です。
もちろん、とらえかたで感情は変わりますから、自分が心地よい感情を感じやすくするのはメンタルヘルスにおいて大事なことです。けれど、感情はコントロールしようとすればするほどうまくいかない性質を持っているので、あまり感情のコントロールを意識しすぎないことが大切です。
それよりは、まずどんな感情でも自分の中から湧き上がってくるものを、“そのまま認める”ようにしてみましょう。“認める”というのは、善悪の判断をせずに、ただ「今わたしは〇〇な気持ちを感じているなあ」「××と感じている自分がいる」と、ただ観察して認めるだけです。
そんなことに意味があるの?と思うかもしれませんが、自分の気持ちとうまくつきあうには、今自分がどのように感じているのかをわかっていることが大切なのです。たとえば怒りを爆発させているとき、“怒っている自分”は見えなくなってしまい、我を忘れて怒りの渦に巻き込まれています。これでは怒りをコントロールすることはできません。
怒っている自分を良いとか悪いとかでなく、ただ「今、私は怒りを感じている」と自分を観察できるだけで怒りのレベルは下がり、コントロールの余地が出てくるのです。
“黒い気持ち”に対しても、そこにハマるのではなく、「どうしていつも私はこうなっちゃうんだろう…」と分析するのでもなく、ただ「“黒い気持ち”が出てきているのを感じるなぁ」と認識して、それ以上そのことに踏み込まずに流していくような練習を繰り返していくと、“黒い感情”に振り回されることが少しずつ減っていくでしょう。
もっと詳しい具体的なアドバイスはこちらもチェック⇒友達の妊娠報告がつらいあなたへ
不妊治療これが辛い②:治療経過、妊娠できないこと
不妊治療は思い通りに進まないことも多く、痛みに耐えたり落ち込んだり…。出口が見えない辛さもに振り回されることも。
【不妊治療を経験した人の声】
●通院をはじめて3年目に、体外受精の凍結受精卵ではじめて着床。大喜びで両親や先輩にも伝えましたが、10週目の検診でおなかの中でなくなっていることがわかりました。長い不妊治療の中でも、このときが精神的に一番きつかったです。(Mさん/39歳)
●体外受精の1回目の移植でダメだったときは、今まででいちばん落ち込みました。人工授精のときとくらべて、事前準備が各段にたいへんで、ほぼ毎日注射に通ったりしていたので、「さすがにここまでしたら授かるんじゃない?」と期待値が高かった分、つらかった。トイレで泣いたり、シャワーを浴びながら泣いたり…。(Lさん/33歳)
●前のクリニックで、「おそらくあなたは胚盤胞を作れない」と治療継続を断られたとき。(Mさん)
●リセットした日に限って、友だちから妊娠報告のLINEが来たりして、精神的に病んでいた時期がありました。そういう友だちとは思い切って距離を置きました。またいつか仲よくなれる時期がきたらいいなと。(ゆみさん/29歳)
●このまま子どもができなかったらどうしよう、と不安で仕方ないです。(Hさん/30歳)
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平山先生からのアドバイス「妊娠できるか、は自分ではコントロールできない」
不妊治療は、周期あたりで考えればうまくいかないことのほうが多いのが実際です。うまくいかない可能性のほうが高いわけですから、うまくいかないことはあなたのせいではなく、不妊治療の性質なわけです。
ですがお金も時間もかけ、痛みも負ってがんばった治療がうまくいかなかったときに、多くの方は「こんなに頑張っているのにどうして妊娠しないんだろう。頑張りが足りないのか、がんばりかたが間違っているのか…」と自分の努力に原因を求めてしまいます。
これは私たちが目標を達成するための方法として“努力してがんばる”ことに慣れているからなのです。テストでよい点が取れなかったら、「勉強しなかったから」と努力不足のせいにするのがその例ですね。努力が足りないからうまくいかなかったという考えかたは、さらなる努力へのモチベーションになりますし、自己の成長につながる場合もありますから一概に悪い考えかたではないのです。
ですが、不妊治療にこの考かえたを適用させてしまうと、“がんばってもうまくいかない”場合にいつまでも自分を責めることになってしまいます。そして「がんばらない自分なんて価値がないし…」とさらなる自責のループに陥ってしまうかもしれません。
このようなとき、私たちは”コントロールできること”と”コントロールできないこと”を混同していることが多いのです。治療施設を選んだり、自分で希望する治療を受けることは自分で選択できる、すなわちコントロールできることです。
ですが、その選択の結果、妊娠できるかどうかは残念ながら自分でコントロールできないのです。なぜなら妊娠には努力以外の部分の影響が非常に大きく、最善の方法を選べたとしても必ず妊娠できるというわけではないからです。
でも、妊娠できない治療を選んだのはやっぱり自分のせいじゃないか、と思うかもしれません。私たちは未来を見通すことができないのですから、それも“自分ができること”を見誤っていることになるのです。自分なりにその時の選べる範囲の中で最善の選択をしたこと自体を認めて納得するようにしましょう。
過去の座談会の様子をチェック⇒これからのことを考えるヒント
不妊治療これが辛い③:仕事との両立
スケジュールの調整や急に休まなくてはならないこともあり、申し訳なく感じたり辛いと思うことも。不妊治療に理解のある職場も増えてきたものの、不妊治療と仕事の両立に悩んでいる人はたくさんいました。
【不妊治療を経験した人の声】
●流産した翌日に、仕事が入っていました。精神的に不安定になってしまって、思わず職場で泣いてしまったんです。仕事と不妊治療を両立させようとすることは、けっして間違いではないはずなのに、悪いことをしているような気持ちになって…。(Mさん/40歳)
●仕事と治療のスケジュールを調整するのがつらいです。職場では頭を下げてばかりな気がします…。(Kさん/38歳)
●仕事を急に休むときの職場の目。(Wさん)
●仕事休んでばかりです…。治療とキャリア、どっちを優先したらいいんでしょうか。(Cさん)
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平山先生からのアドバイス「もっと ”したたか” でもいいのでは?」
「職場で妊娠した人や子育てをしている人には手厚く対応されるのに、不妊治療を頑張っている自分には何の配慮もしてもらえない…」
確かにまだまだ日本の社会で妊活や不妊治療の苦しさまで理解して、子どもを望んでいる社員が仕事と治療を両立できるよう配慮している職場は少ないでしょう。そしてそれは、妊婦さんや子育て中の人に対しても少し前までは同様だったわけです。本当に働きにくい社会だったのが、ようやく子育て支援が少しずつ浸透している状況ですよね。それらより見えにくい妊活中の人へのサポートが遅れているのが現状かと思います。
その意味では、両立の難しさや大変さを感じて怒りや徒労感を覚えるのはあなたがおかしいわけではなく、正当な怒りであるといえるでしょう。それを社会を変えていく活動に変えていく人もいらっしゃいます。
ただ最近では、厚生労働省が「不妊治療と仕事との両立のために」という専門ページを作ったり、不妊治療と仕事の両立がしやすい環境整備にとり組む企業の認定制度を開始するなど、少しずつですが状況は変わってきています。職場に不妊治療の内容や通院で休む必要性を理解してもらうためのパンフレットなどもできているので、活用できる人はダウンロードしてみましょう。
また、私が感じるのは、言いかたはよくないかもしれませんが、もっと“したたか”に両立を考えてみてもよいのではないかということです。したたかというのは、もう少しだけ自己中心的になってもいいのでは、というニュアンスです。
仕事との両立に悩む方のお話を聞いていると、「職場に迷惑をかける」という言葉がたくさん出てきます。確かに迷惑をかけないほうがよいでしょうが、ご自身の人生において、不妊治療という限られた期間における職場との関係と、子どもを得るという自身の望みとの優先順位を考えてみるべきではないでしょうか。
もちろん仕事のほうが大事だから、ほどほどに治療しようということでもいいでしょうし、多少キャリアが犠牲になっても(本来はそんなことがないのが社会としては健全ですが)お子さんを授かるために力を注ぐことが今は大事と考える方もいらっしゃるでしょう。
すごく冷たいようですが、多くの場合、会社はあなたの人生を保証してはくれません。会社に使われるのではなく、自分が仕事とどう向き合っていくかを選ぶ時代になっているのだと思います。そのような時代に、会社のためにどこまで時間をささげる価値があるかを、冷静に見直す機会を持ってもよいのではないでしょうか。
不妊治療これが辛い④:お金
保険適用となったとはいえ、年齢や回数の制限もあり大きなお金がかかる不妊治療。回数を重ねるとそれだけ家計への負担も大きくのしかかってきます。
【不妊治療を経験した人の声】
●嘘のようにお金がなくなります。できるかぎり必要な検査や治療には惜しみなくお金を出してきましたが、先の見えない検査や治療に心身ともに負担が大きく、今は治療をお休みしています。(Autmnさん/37歳)
●43歳以上なので全額負担で貯金ほぼ使い果たしましたが、まだ妊娠には至ってません…。(Tさん)
●たくさんお金をかけても妊娠できるとは限らないし、もしかしてすべてが無駄になるのかなと考えると辛くなります。貯金が減っていくのを見ながら、誰かに止めてほしいという気持ちになることも。(Aさん)
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平山先生からのアドバイス「客観的に考えることで見えてくることも」
「こんなにお金をかけたのだから、やめてしまうとすべてが無駄になってしまい治療をやめられない…」。このような思いで治療がやめられずに結局さらにお金をかけてしまうような心の働きを、“サンクコストバイアス”といいます。
もう少し頑張ればうまくいくかもしれないし、という“楽観バイアス”もあいまって、やめる勇気が失われてしまうのです。サンクコストバイアスから逃れるためには、
①限界を定めておきその約束を守る
②これまでの努力を一度ないこととして、今のあなたの気持ちや考えを見直してみる
③治療を続けない場合のメリットを客観的に見直し、比較する
などの方法があります。
①の限界設定についてですが、今からでもよいので、この先の治療にどれだけのお金(体力や治療法などについても同様にしてみるとよいでしょう)をかけるか、パートナーと二人で話し合いましょう。そしてその決めた限界を守ること。その場合は感情を入れず機械的に判断することを約束するようにしましょう。
②は今のあなたにとって治療を続けることがどのくらい大事なことか、これまでのことを白紙にして考えてみることです。もしあなたのとても大事な親友が今のあなたの状況だったら、治療を続けるようにアドバイスするでしょうか?と考えてみるといいかもしれません。
③治療して妊娠できるのが絶対的に望ましいことだ、という思いはどうしてもなくならないかもしれません。ですが、治療を続けないこと、子どもを持たない人生や養子を迎えることなど、正しい知識に基づいて平等に選択肢として考慮したことはありますか?治療を続けないことで広がる人生の可能性はないでしょうか?
子どもができるという、ずっと望んでいたことが叶うかもしれない場合のメリットが大きく感じられすぎていて、それ以外の場合のメリットを過小評価していることが意外と多いものです。客観的に比較してみましょう。
不妊治療これが辛い⑤:まわりからのプレッシャー、何気ない一言
悪気がないのはわかっていてもグサッとくるまわりからの言葉。「子どもはまだ?」なんて気軽に聞かないでー!
【不妊治療を経験した人の声】
●家族以外の人からの子どもの催促。(Cさん)
●飲食店で知らない人に「子無し夫婦で仕事してないってことは妊活してるの?」と聞かれた。(Mさん)
●2個の胚盤胞があったのですが、夫の「1回で妊娠しなくても、もう1個あるし大丈夫」という言葉に傷つきました。わたしはそんなポジティブに考えられません…(Mさん)
●結婚するまでは「結婚はまだ?」と言われ、結婚したら「子どもはまだ?」。正直、親戚の集まりに行きたくありません。(Aさん/40歳)
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平山先生からのアドバイス「傷ついた事実はかわりません」
周りの声はあなたを惑わせるでしょう。でも忘れないでほしいのは、“悪気がないから怒ってはいけない”わけではないということです。悪気のない言葉でも、あなたが傷ついたという事実は変わりません。
その傷つきを「私に不妊の原因があるからしょうがないんだ」「わたしが不妊だから…」などと自分の責任とする必要はないのです。傷つけた相手に対して直接怒りを表明するかは別として、怒りを感じた自分を否定しないでほしいと思います。そして、傷つきを自分で、あるいはカップルで、そして私たち専門家を利用して癒していきましょう。
【編集部まとめ】
不妊治療中は不安や孤独、ストレスを感じる場面が多く、「辛い」と感じることも少なくないでしょう。「辛さ」は自分に合った方法で発散し、抱え込まないことも大切です。ネガティブな自分も時には受け入れ、うまく気分転換しながら過ごしていけるといいですね。
まとめ/木村亜紀子
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生殖心理カウンセラー(公認心理師・臨床心理士)。
東京リプロダクティブカウンセリングセンター代表。
広島市出身。広島大学教育学部心理学科卒業後、1997年より広島HARTクリニックで心理専門職による不妊カウンセリングを開始。98年米国にて生殖心理学の研修を修了。2002年より東京HARTクリニック生殖心理カウンセラー。21年生殖と不妊の心理支援に特化した心理相談室を開設。日本生殖心理学会副理事長。
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