基礎体温で身体を知ることが妊活の第一歩【中医学リプロダクティブヘルス】集中特訓#03
妊娠したい女性&カップルなら、ぜひ知っておくべき!漢方・中医学による妊活アプローチについて、「学び」を深める連載。妊活を始めたばかりの人も、なかなか妊娠しないと不安な人も、「読むだけ」で妊娠しやすい身体づくりをめざすことができる!そんな妊活の基本をまとめています。
教えてくださるのは中医学講師の張(ちょう) 立也(りつや)先生。『赤ちゃんが欲しい(あかほし)』編集部とともに、さぁ、授かりに向けて学びのトビラを開きましょう。
第3回のテーマは「基礎体温」。基礎体温を測ることで、自分の身体の状態をくわしく知り、妊活に向けてよりよい身体にととのえていきましょう。
▼これまでの集中特訓はこちら
#01 妊娠したいならまず「体質タイプ」を学ぼう
#02 漢方のベーシック妊活「周期調節法」について知りたい
基礎体温の変化は女性の排卵サイクルと関連が深い
基礎体温(Basal Body Temperature=BBT)は、ヒトも含んだ「恒温動物が生命維持に必要な最小限のエネルギーしか消費していない安静の状態で測定した体温」をいいます。
女性は排卵を機に、基礎体温が上昇するという性質をもっているため、もともとは西洋医学の概念で、主に避妊のために使われていました。いまは、妊娠を希望する人が、性交渉のタイミングをとる目安を知るためや、月経不順の原因の分析など、さまざまな目的で利用されています。
基礎体温の変化
正常なホルモン分泌がある場合、基礎体温は、月経周期前半の卵胞期(低温期)と、後半の黄体期(高温期)の二相に分かれます。
月経開始から約 14日間つづく低温期は、卵胞ホルモン(エストロゲン)の働きによって、子宮に新しい内膜ができ、卵胞が発育していきます。卵胞が十分に成熟して排卵が起こると、卵子を放出したあとの卵胞は黄体となり、ここから黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されます。黄体ホルモンは、子宮内膜をやわらかくととのえ、受精卵がやってきたときに着床しやすくなる働きをします。また黄体ホルモンには、体温を上昇させる作用があるため、この時期は基礎体温が高温になります。
一般的には、排卵前の低温期と排卵後の高温期では、平均で0.3~0.5℃の基礎体温に差が出ます。月経から排卵までの低温期の日数は人によって異なりますが、排卵から次の月経までの高温期は、妊娠しない限り14日以上にならないのが一般的です。
あなたの基礎体温が低温期と高温期に分かれて二相性で、概ね14間前後のパターンであれば、排卵がきちんと起こり、妊娠を維持するホルモンの分泌も十分だと考えられます。
基礎体温は正しく測ろう
基礎体温は、十分な睡眠をとって目覚めたあと、横になった状態のままで、口(舌下)に基礎体温計(婦人用体温計)を入れて測ります。こまかい温度変化をとらえるためには、一般の体温計ではなく、小数点以下第2位まで測れる基礎体温計を使います。基礎体温は起き上がるなどのちょっとした動きだけでも、変化してしまいます。寝る前に、枕元に基礎体温計を置いて、手を伸ばすだけでとれるようにしておくといいでしょう。
計測した体温は、基礎体温表に記入し、折れ線グラフにします。いまは手軽なアプリなどもありますので、それらを利用してもいいでしょう。
基礎体温はできれば同じ時刻に測るほうがいいのですが、あまり厳密に考える必要はありません。無理をするとつづかなくなってしまいます。いつもと大幅に時間がずれたときは、そのことをメモしておきましょう。夜勤などがあり定刻で就寝できない方は、まとまった6時間以上の睡眠をとった時に測りましょう。
中医学の「陰陽」の考え方で見る基礎体温
中医学では、すべての事象を「陰陽」に分けてとらえます。「陰」と「陽」にはそれぞれ役割があり、どちらが欠けても身体にとってバランスを失った状態になってしまうという考え方です。女性の自然のメカニズムも、この「陰陽」とミックスして考えますが、低いものが陰に属し、高いものが陽に属します。
つまり、前半の卵を育てている低温期が「陰」、排卵後の高温期が「陽」となります。たとえば、低温期に「陰」が不足していると、排卵がうまく起こらず、低温期から高温期への移行に時間がかかったり、高温期が短くなったりします。
そこで、低温期には「陰」と妊娠に欠かせない「血」を養う漢方を使います。排卵期は成熟した卵をスムーズに排卵させる、陰から陽への転換期です。高温期(黄体期)になったら、妊娠にそなえて子宮の血流をよくするために「陽」と「気」を補うことを重視した漢方で、身体のバランスをととのえていきます。高温期が終わり、基礎体温が下がると、また次の月経が始まります。月経期には、経血を徹底的に排出することが重要です。
基礎体温からわかること
①排卵の有無
②排卵日の予測
③黄体機能不全の有無
④不正出血の有無と原因の予測
⑤妊娠と流産の予測
基礎体温は、排卵を機に低温から高温に変化しますが、すべての人の変化が理想的な二相性を描く曲線になるわけではありません。いろいろなパターンがあり、また同じ人でも、周期によって違いが出るのは一般的によくあることです。
基礎体温グラフのチェック6項目
1 周期の日数(長さ)
2 低温期が何日間あるか
3 二相性になっているかどうか、排卵日はいつごろか
4 低温期から高温期へはスムーズに移行しているか
5 高温期は何日間あるか、途中の陥落があるか
6 全体的に低すぎるか、高すぎるか(35.5~37.2℃)
基礎体温のグラフを見るときには、基礎体温の温度(高さ)のほか、1の周期の日数(長さ)が重要です。
月経周期は26~32日が理想で、そこから多少の幅はあっても、23日以下や39日以上は問題があります。この長さは、脳中枢から分泌されるホルモンの働きで左右される、排卵のリズムを反映しています。長さが周期によってばらつくときは、排卵が不安定な可能性があります。
基礎体温の高さは、自律神経の働きと関係しています。理想的には低温相が36.5℃前後、高温相は36.8℃前後ですが、おおむね0.3℃の差があれば正常と判断します。曲線には波があるので、最高値や最低値を見るのではなく、平均値で見ます。基礎体温は朝目覚めたときの気温や寝具など、季節によっても若干影響されます。
極端な例ですが、基礎体温の曲線がギザギザで、二相性にならない場合でも、周期がとても長くても、ある程度月経が定期的にあれば、妊娠することはあります。ただし、温度差が小さく、あるいはほぼ平坦なグラフの場合には、経験的には正しい排卵があることは少ないようです。
基礎体温で身体のリズムを把握するためには、1周期だけではなく、少なくとも3周期は体温を記録してみて、トータルで判断することがたいせつです。
基礎体温のパターンから問題点をさぐる
では、いくつかの典型的な基礎体温のパターンを見ていきましょう。以下のグラフを示す場合は、妊娠を妨げる病気やトラブルが隠れている場合があります。専門家に早めに相談するのがのぞましいですね。
■低温期が長い
低温期が15日以上、長くつづくパターンです。この場合、排卵までに時間がかかっているのが原因です。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)で、卵巣に未熟卵がたくさんあり、成熟に時間がかかるケースや、そもそもホルモンの分泌が弱く、なかなか卵が育たないケースなどがあります。
■低温期が短い
低温期が短く、次の月経までの期間も短いケースです。低温期が短いのは、脳と卵巣の反応が一致していない可能性があり、プレ更年期に見られる特徴です。卵は未成熟なのに、脳は成熟したとカン違いして、排卵の指令を出してしまうのです。もともと月経周期が28日前後の人が、年齢と共にに24日以内に短くなるのは卵巣機能低下の可能性があります。40代ではよく経験することです。
■高温期への上昇が遅い
低温期から高温期への移行がゆっくり。完全な高温相になるまで、ダラダラと日数がかかっています。高温相への上昇は3日以内なら問題ありませんが、それ以上だと、結果として高温期が短くなってしまいます。
■高温期が短く、途中で陥落する
高温期の体温がギザギザして、途中で陥落するようなときは、黄体ホルモンが不足している可能性があります。また低温期に、卵胞の発育が十分ではなかったときにも、こうしたグラフになることがあります。高温期が10日未満の場合、せっかく受精卵が子宮にやってきても、着床のタイミングをのがしてしまい、妊娠しづらくなると考えられます。
基礎体温が二相にならなかったり、全体的に低めの場合
上にあげたパターン以外にも、問題があるケースがあります。たとえば、低温期と高温期の二相性にならないときは、排卵していない可能性があります。無排卵は、過度のダイエットや過労などによるホルモンの分泌異常や、精神的ストレスが原因のことも。無排卵ではふつう月経がこなくなりますが、なかには出血があっても排卵はしていない「無排卵月経」もあります。
全体に体温が低めでも、二相性になっていて、その差が0.3℃以上あれば、その人の体質ですが、低温期の平均値が35.5℃以下なら、低体温症と考えられます。低体温症の女性は、全般的に身体のエネルギーが不足しているので、いい卵が育っていない可能性があります。体温を保って、生命活動を維持するためには、「補血」「補腎」の対策が必要です。
その反対に、体温が常に高めで、低温期でも36.8℃くらい、高温期では36.8~37.1℃くらいの人もいます。主に体質によるもので、体温が高めのほうが、基礎代謝がやや高いともいわれていて、体調に問題がなければ、あまり気にすることはありません。
月経期だけ体温が高く、月経が終わると下がるタイプなら、ホルモンバランスの乱れによる炎症をもっている人もいるでしょう。子宮内膜症や子宮腺筋症など、婦人科的な炎症があると、月経時に発熱することがあり、この場合は月経痛もひどく、ご本人にも自覚があるでしょう。婦人科の病気が疑われるときは、やはり一度病院を受診して、検査を受けたうえで対処します。病院での治療と並行して、体質改善のために漢方薬を服用することもおすすめです。
漢方相談に行くときは基礎体温表を持参して
基礎体温表がなければ、漢方相談ができないというわけではありませんが、あればやはり妊娠に向けての大きな手がかりになります。
まずは2~3周期、基礎体温を測ってみてはいかがでしょうか。きっちり正確でなくても、ときには測り忘れてもかまいません。月経痛や不正出血、睡眠不足や飲酒、薬の服用なども、気づいたらメモしておくとさらにGOODです。
それらをベースに中医学の専門家に相談してみましょう。漢方薬局・約店では、それぞれのかたの体質や月経周期の時期に合わせて、より適切なアドバイスや漢方薬の提案を行うことができます。
妊活をスタートするなら基礎体温を測りましょう
妊娠を希望していなければ、いつ月経がきて、いつ終わったかぐらいは意識しても、体温の変化までは気を配らないかたがほとんどかもしれません。
でも、妊活をスタートするのであれば、基礎体温は女性の身体の状態を知るためのとても重要な情報源です。中医学では、西洋医学のように、超音波で卵胞の大きさや子宮内膜の厚さを測ったりはできませんが、基礎体温表から読みとれることはたくさんあります。基礎体温をつけることは、自分の体調を管理することにもつながります。自分なりに、無理なくつづけられる方法を探してみてください。
▶次回の集中特訓【月経とうまくつきあって、妊娠できる体質に!#04】はこちら
取材・文/山岡京子
中医学講師。中国・遼寧中医薬大学卒業。同大学に医師、大学講師として勤務。1996年に来日し、埼玉医科大学にて医学博士号取得。日本中医薬研究会講師。不妊カウンセラー。著書に『中医非薬物療法の基礎と臨床』など。やさしくも的確なアドバイスにファン多数。
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