漢方のベーシック妊活「周期調節法」について知りたい【中医学リプロダクティブヘルス】集中特訓#02
妊娠したい女性&カップルなら、ぜひ知っておくべき!漢方・中医学による妊活アプローチについて、「学び」を深める連載。妊活を始めたばかりの人も、なかなか妊娠しないと不安な人も、「読むだけ」で妊娠しやすい身体づくりをめざすことができる!そんな妊活のきほんをまとめています。
教えてくださるのは中医学講師の張(ちょう) 立也(りつや)先生。『赤ちゃんが欲しい(あかほし)』編集部とともに、さぁ、授かりに向けて学びのトビラを開きましょう。
第2回のテーマは中医学の「周期調節法」。中国で考案された不妊治療法で、日本でも周期調節法によって、多くの女性が妊娠しています。
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生理の周期に合わせ漢方で身体をととのえていく「周期調節法」
漢方で妊娠力を高めていく方法に、「周期調節法」があります。周期調節法とは、基礎体温やホルモンの変動を参考にしながら、生理周期のメカニズムと中医学の考え方を融合したもので、生理の周期に合わせて漢方で身体をととのえていく方法です。
周期調節法(中国では「周期療法」という)は、 「易経」や「陰陽学説」と中医学独特の臓腑気血理論に基づいて考案された不妊治療法で、50年間の歳月を経て現在も中国では婦人科の臨床に広く応用されています。
西洋医学と中医学、不妊治療の違いとは?
西洋医学には「体外受精」という画期的な技術があり、それによって妊娠率は向上しました。しかし、その高い技術をもってしても、残念ながら必ずしも全員が妊娠できるわけではありません。よい卵子と精子があっても着床できない、つまり母体の準備がととのっていないために、妊娠できないケースもあるのです。その弱点を補うことができるのが、「身体づくり」という観点からアプローチする中医学です。
中医学と西洋医学、どちらも「妊娠する」という目的に向かって治療を進めますが、両者はものの見方の角度が違うと考えるとわかりやすいでしょう。西洋医学が数値と検査結果を重視するという方向から身体をみているとすると、中医学は体質や体調と月経のリズムという方向からみているのです。周期調節法では、西洋医学と中医学の特長をいかして広い視点から身体の状態をみることができるのです。
中医学の「陰陽」という考え方とは?
周期調節法は「陰陽学説」と臓腑気血理論に基づいた理論であると説明しましたが、その「陰陽」について、お話ししましょう。
「陰陽」とはその字のごとく、日があたる側が「陽」、日が当たらない側は「陰」という意味です。中医学ではすべての物事を「陰陽」に分けてとらえ、「陰」と「陽」のそれぞれには役割があり、そのどちらが欠けても身体にとってバランスを失った状態になってしまうと考えます。
たとえば、昼間は「陽」に分類されるため、人間の身体としては「活動する」のが自然に沿った本来の動きです。 逆に夜は「陰」の時間で、ゆっくりと「休養する」ことが必要です。ところが、夜勤など眠るはずの時間に仕事をしなくてはならない場合、その状態が長期間続くと、身体の不調となって現れることもあります。
この場合、「陽」の行動(活動すること)に比べて「陰」の行動(休むこと)が不足していますから 身体にも「陰の不足」のサインとなる症状が出やすくなります。そんな時には「陰」を養う漢方を使って身体のバランスをとっていくのです。
妊娠においては、卵胞は「陰」、それを育てる働きが「陽」です。女性ホルモンでは、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)も「陰」と「陽」の関係にあると考えます。
基礎体温でみると、排卵の前は体温がやや低く、この低温期が「陰」の時期とし、排卵後に体温が上昇し、高温期は「陽」の時期と考えます。たとえば「陰」が不足していると、低温期と高温期の境にある排卵という変化がうまく起こらず、基礎体温も低温期から高温期への移行に数日かかるグラフになるでしょう。低温期に「陰」が不足していると、高温期は短くなり、さらに次の生理にも影響が及ぶと考えます。
周期調節法は4つの時期がある
周期調節法では、基礎体温を参考にしながら、月経周期を「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」という4つの時期に分けて考えます。それぞれの周期によって異なるホルモン分泌や身体の状態を中医学で分析し、周期によってそれぞれにあった漢方で身体の状態をととのえていくのです。
では各周期ではどんな身体の状態なのでしょう。それぞれどんな漢方を対応させることが多いかもお伝えしていきますので、参考にしてください。
<周期調節法の方針>
●身体の不調をととのえ、妊娠しやすい身体作りを目標にします。
3カ月かけて冷え・血色不良・凝り性・便秘・寝付きの悪さなどを改善していく。
●ホルモンのバランスをととのえて、よい卵を育て排卵できるようにして、妊娠力を高める。
●子宮内膜をフワフワの状態にして、よいタイミングで夫婦でトライする。
◆月経期
気血のめぐりをよくして(行気活血)、血を作り出し、月経をととのえる(養血調経)
生理前と生理中では大きく体調が違うように、この時期の身体のなかでは激しい変化が起こっています。月経期にもっとも大切なのは、経血を完全に排出すること。不要となった子宮内膜が身体の中に残ると、血の巡りが悪くなる瘀血(おけつ)の原因となってしまうからです。瘀血は強い生理痛、子宮内膜症や子宮筋腫などの素因となることもあります。瘀血を防ぐためにも、経血をしっかりと出し切るために「気血」の巡りを高めることを中心に対応していきます。
[よくある問題]
生理痛がひどい、基礎体温にばらつきがある
[漢方での対応]
気の巡りをよくし、瘀血を取るもの
[よく使われる生薬(しょうやく)]
丹参(たんじん)、当帰(とうき)、紅花(こうか)、香附子(こうぶし)など
[おすすめ食材]
香りのよいハーブティー、棗(なつめ)、しょうが、鶏肉、たまご、大根、にんにく、ねぎなど
[おすすめの漢方薬]
イスクラ冠元顆粒(かんげんかりゅう)
タンジン、コウカなど6種類の植物性生薬から抽出したエキスを顆粒としたもので、中年以降または高血圧傾向のあるものの頭痛、頭重、肩こり、めまい、動悸の改善を目的としています。45包・90包。
◆卵胞期
陰と血を十分に補充し(滋陰養血)、腎の機能を高めて精を補充する(益腎填精)
生理の終盤から(3日目以降)排卵までの時期は、新しい内膜ができ、卵胞が発育していく時期です。基礎体温では低温期で、「陰」が増える時期になるため、卵胞をしっかりと成長させるためには、十分な「陰」と妊娠に不可欠な「血」が必要です。
また、よい卵子を育てるためには最も大切な時期ですので、十分な栄養と休息をとり、気持ちにゆとりを持つことも大切です。特に、卵胞が育つのは夜が中心といわれており、夜更かしをすると卵胞の成長に欠かせない「血」や「腎陰」が消耗してしまうため、睡眠は重要。できれば10時前、遅くとも11時前には就寝するようにしましょう。
[よくある問題]
卵の成長が遅い、基礎体温のばらつき
[漢方での対応]
血を養い、腎陰を補うもの
[よく使われる生薬(しょうやく)]
当帰(とうき)、地黄(じおう)、亀板(きばん)、すっぽんの甲羅、女貞子(じょていし)、旱蓮草(かんれんそう)、枸杞(くこ)など
[おすすめ食材]
魚介類、牛肉、たまご、大豆製品、小松菜、ほうれんそう、にんじん、くるみ、ぶどう、大豆製品、雑穀類など
[おすすめの漢方薬]
イスクラ双料杞菊顆粒(そうりょうこぎくかりゅう)
六味丸にキクカとクコシを加えた処方で8種類の生薬から抽出したエキスを顆粒としたものです。45包・90包。
◆排卵期
腎を補い(補腎)、血をめぐらせて排卵を促す(活血促排卵)
卵胞から卵子が飛び出す排卵期は、低温期から高温期へ、「陰」から「陽」への転換期。排卵をスムーズにするために、「気血」の巡りをよくしておくことが大切です。また、「腎」の機能をサポートする補腎も必要です。
散歩やストレッチ、ヨガなどで身体を動かし「気血」の巡りを高めて、排卵をスムーズにしましょう。
[よくある問題]
排卵障害、おりものが少ない、不正出血、高温期への上昇が鈍い
[漢方での対応]
精血の充実、気持ちの安定、気血の巡りをよくするもの
[よく使われる生薬(しょうやく)] 鹿茸(ろくじょう)、丹参(たんじん)、当帰(とうき)、紅花(こうか)、香附子(こうぶし)など
[おすすめ食材]
香りのよいハーブティー、クコの実、柑橘類、なす、レバー、春菊、セロリ、香菜(シャンツァイ:パクチー)、梅干しなど
[おすすめの漢方薬]
イスクラ参茸補血丸(さんじょうほけつがん)
滋養強壮薬によく配合されるニンジン・ロクジョウをはじめリュウガンニク・カラトウキ・オウギ・ゴシツ・トチュウ・ハゲキテンという8種類の生薬を配合した丸剤です。420丸・420丸×2。
◆黄体期
気を補充して血を増やし(益気養血)、腎陽の力を高めます(温陽助孕)
排卵が起こった後は、黄体ホルモンの分泌によって体温が上昇します。基礎体温では高温期で、「陽」の時期にあたります。黄体期は、子宮内膜の血流が豊富になり、受精卵を着床しやすくする準備の期間です。
子宮内膜が温かくやわらかい状態を保てるよう「気血」と「腎陽(じんよう)」を補うことを中心に、巡りをととのえて子宮を温めることが必要です。特に下半身が冷えないよう心がけて、冷たい飲み物や食事も控えめにしましょう。
[よくある問題]
黄体ホルモンの働きが弱く、高温期の日数が短い(11日未満)
[漢方での対応]
気血を補うもの、腎陽を補うもの
[よく使われる生薬(しょうやく)]
人参(にんじん)、鹿茸(ろくじょう)、淫羊霍(いんようかく)、杜仲(とちゅう)、地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)など
[おすすめ食材]
しょうが、にんにく、鶏肉、ニラ、かぼちゃ、くるみ、山芋、長芋、棗(なつめ)、ごま、うなぎ、えび、黒きくらげなど
[おすすめの漢方薬]
イスクラ双料参茸丸(そうりょうさんじょうがん)
ロクジョウやニンジンなど動物・植物計14種類の生薬が配合されており、これらの原料を粉末にし丸剤とし、プラスチック製の容器に入れ蝋封したものです。6丸。
このように各周期にあわせて、その時期に服用する漢方薬は異なりますが、体質に合わせて使う漢方薬はさらに異なります。たとえば身体の栄養となる血が不足している「血虚」のかたであれば、ベースで婦宝当帰膠を使いますし、全身の血の巡りが滞っている「瘀血」なら、ベースで冠元顆粒を使います。身体が弱く、すぐ下痢をしてしまうなど食事量の少ない場合は、漢方が胃腸できちんと吸収されにくいので、妊活の薬を半分にして、まずは胃腸を丈夫にする薬をベースにすることもあります。
イスクラ婦宝当帰膠B(ふほうとうきこうびー)
トウキをはじめ、センキュウ、オウギなどを加えた処方で、これら9種類の生薬を原料とするシロップ剤です。当帰は、女性の健康な身体づくりに欠かせない生薬として知られるセリ科の植物。
当帰は中国では昔から「女性の宝」として重宝されてきました。中国の民話にも、病弱で子供ができない女性が、当帰の根を食べて生理が順調で元気になった話などがあります。300mL・300mL×2。
※イスクラ婦宝当帰膠B(ふほうとうきこう)は 日本中医薬研究会の薬局・薬店で購入できます。
お問合せ先/イスクラ産業株式会社
お客様相談室 03-3281-3363(土日祝日を除く)
お近くのお店を探すことができるサイトも便利!https://chuiyaku.or.jp/
基礎体温を測っていなくても周期調節法は始められます!
妊活を始めるとき、基礎体温は排卵日を知る手がかりになるため、まずは基礎体温から付け始める、という女性も多いと思います。周期調節法でも、基礎体温は身体の状態を知る貴重な情報源になるため、初めて不妊相談に来られるかたには、基礎体温グラフを持参するようにお願いします。
しかし、基礎体温表がなければ、周期調節法を受けられないわけではありません。
実際に、もともと測っていないというかたもいれば、以前はつけていたけれどストレスになるのでお休みしているというかたもいらっしゃいます。また基礎体温を記録していても、基礎体温グラフがガタガタで排卵日がよくわからないという女性もいらっしゃいます。
そのようなみなさんが周期調節法を始める場合は、生理周期を参考にします。生理がいつから始まっていつ終わったか、過去3周期分をお聞きします。そして今後は可能ならば、おりものや、不正出血、体調の変化なども気にしていただきながら、基礎体温を測っていただくようにします。毎日記録するのがむずかしければ、月に4~5日つける程度でもかまいません。およその傾向がわかればいいので、無理のない程度で記録していただくようにしています。
また、すでに病院で不妊治療をしていて、半年以上毎日ホルモン治療を受けていたかたの場合、薬で生理周期や排卵をコントロールしていた影響によって、基礎体温表の信憑性が低い場合があります。その旨をお話していただければ、薬剤師や登録販売者がそれを加味して、もともとの体質なのか、ホルモンの影響なのかを吟味して漢方をご紹介します。
妊娠をめざすだけでなく、体調がよくなるのが周期調節法のメリット
これまで多くの女性が周期調節法で妊娠していますが、早ければ1周期で妊娠することもあります。逆に4年近くかかった人もいれば、45歳でも第2子を2周期で妊娠したかたもいます。つまり、年齢や持っている疾患など、それぞれの状況で違うということです。
初めて漢方相談に来られたかたには、まずは3~4周期は続けてみましょうとお伝えします。かぜや腹痛のケアとは違って、子宝のプロジェクトは排卵のリズムと双方の体調があり、2人で仲良く月単位で見るようにしましよう。
漢方の服用を始めても、すぐに妊娠という結果は出ないかもしれませんが、およそ3カ月で体調の変化を感じられ、基礎体温によい変化がみられるはずです。
体質を改善し、体調をよくしながら、妊娠をめざすのが、漢方薬のメリットといえるでしょう。
▶次回の集中特訓【基礎体温で身体を知ることが妊活の第一歩#03】はこちら
取材・文/加藤夕子(リワークス) グラフ作成/高橋ポルチーナ
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中医学講師。中国・遼寧中医薬大学卒業。同大学に医師、大学講師として勤務。1996年に来日し、埼玉医科大学にて医学博士号取得。日本中医薬研究会講師。不妊カウンセラー。著書に『中医非薬物療法の基礎と臨床』など。やさしくも的確なアドバイスにファン多数。
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