3ページ目(3ページ中) | 不妊治療を終え、特別養子縁組でママ&パパに。瀬奈じゅん&千田真司さん夫婦インタビュー
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瀬奈:当時、私は体外受精専門の病院に通っていたのですが、朝から何百人もの女性が治療に訪れます。待合室で長い順番を待っているとき、ふと「この中で何人の女性が我が子を抱けるんだろう」と思ったんです。みなさんどんな思いでここにいるのだろうと。
あの待合室に特別養子縁組のパンフレットなどが置いてあれば、なかには救われる方もいるかもしれません。実際には養子を迎えなくても、そういう制度があると知っているだけで、少しは気持ちが楽になるかもしれない。不妊治療で燃え尽きる前に、選択肢の一つとして知っていただければいいなと思います。
―そういう思いもあって、特別養子縁組のウェブサイト「& family..」を立ち上げられたのですね。
千田:息子が大きくなったとき、養子縁組の親子が特別視されない世の中になっていてほしいという願いもありました。「さまざまな愛のカタチ、さまざまな家族のカタチ」という副題のとおり、夫婦にもいろんな形、考え方があると思います。どんなカタチも自然に受け入れられる社会になるといいですね。
特別養子縁組は子どもを救う制度だと言われていますが、本当に救われたのは僕たち夫婦でした。その経験を多くのかたに伝えていきたいと思っています。
瀬奈:今は「普通養子」と「特別養子」の違い(実親と子どもの法的関係が残るのが前者、残らないのが後者)を知っている方もまだまだ少数だと思います。
でも例えば「お酒は20歳になってから」というのは日本人のほぼ全員が知っていますよね。そのくらい誰もが知っている制度になることが目標です。私たちにできるのは、こうしてメディアに取り上げていただいて、少しでも多くのかたの目にとまることかなと思っています。
―具体的にはどのような活動をされているのですか。
千田:トークイベントや講演会などが中心です。サイト内では、乳児院や福祉の専門家を取材して記事にしたり、養子にまつわる本や映画の紹介などもしています。この12月には、僕たちの不妊治療や特別養子縁組の経験を綴った『ちいさな大きなたからもの』という本も出版する予定です。
―特別養子縁組がもっと広まるためには、何が必要だと思いますか。
千田:日本には、さまざまな事情で生みの親と暮らせない子どもが約46000人います。そのうち8割以上が乳児院や児童養護施設で暮らしていて、養子や里子として家庭で暮らせる子どもはわずかです。
決して施設が悪いわけではありませんが、子どもにとっては一般の家庭で養親に愛されて暮らすほうが幸せだと思います。子どもにとっては安定した家庭環境で暮らせることが良いとされ、国も指針を出しています。
僕たちがお世話になった団体に話を聞くと、養親を必要とする子どもの数は年々増えていますが、それに比べて養親希望者はまだ少ないそうです。不妊治療をしている人は年々増えているので、潜在層は多いと思いますが、やはり養子縁組のハードルは高いのかもしれません。
今現在、養護施設にいる0~18歳の子どもを全員、養子縁組するのは難しいですが、例えば毎年0歳児だけでも施設に入る子をゼロにできれば、18年後にはすべてゼロになるかもしれません。そのためにも、僕たち当事者がもっと声をあげて、多くの人に発信していけたらと思っています。
―最後に、不妊に悩む読者にメッセージをお願いします。
瀬奈:不妊治療中はみなさん、人にはわからないつらい思いをそれぞれ抱えていらっしゃると思います。人から何を言われても、今は耳に入らないでしょう。私もそうでした。心身が健康なうちは、納得がいくまでやり尽くすことが重要だと思います。
私は当時、自分のせいでこうなったんじゃないかと、いつも自分を責めていました。でもそれは誰のせいでもない。みなさんには決して自分を責めず、ゆったりした気持ちで取り組んでほしいと思います。
結局私は自分の子どもを産むことはかないませんでしたが、今、愛すべき命に恵まれて、とても幸せです。
特別養子縁組はすごくハードルが高いイメージがあるようです。命を預かるわけですから、簡単ではありませんが、高すぎて飛べないハードルではない。何年もつらい不妊治療を続けるほうが大変なことかもしれません。
私は今、不妊治療をがんばっているみなさんに、特別養子縁組をおすすめするつもりはありません。ただ、こういう選択肢もあると知っていただけたら、そしてそれが少しでもみなさんの助けになれば、心からうれしく思います。
関連リンク:特別養子縁組って?年齢制限や費用は?産まずに育てて母になった人の体験談も
ふたりが立ち上げた特別養子縁組のWebサイト「&family…」
不妊治療を経て、特別養子縁組で我が子を授かった自身の体験をもとに立ち上げた「&family..」。「さまざまな愛のカタチ、家族のカタチ」が受け入れられる社会を目指して、ウェブサイトでの様々な情報提供や講演などの活動をされています。
https://andfamily.jp/
【Profile】
瀬奈じゅん(せな じゅん)
元宝塚歌劇団月組トップスター。 1992年宝塚歌劇団に入団。 『この恋は雲の涯まで』でデビュー。 2009年に退団した後は女優として活躍。 舞台やテレビ番組、 ラジオなど多方面で活動し、 2012年菊田一夫演劇賞 演劇賞、 岩谷時子賞 奨励賞をW受賞。 千田真司氏と結婚後は特別養子縁組で子どもを授かったことを公表し、 シンポジウムなどで積極的に講演を続け「特別養子縁組制度」について理解を広める活動を行っている。 現在は仕事と育児を楽しむ日々を送る。
千田真司(せんだ しんじ)
2008年「さらば我が愛、 覇王別姫」にて舞台デビュー。 俳優、 ダンサーとしてキャリアを積み続ける。 現在は出演だけでなく振付師としても活動しながら、 自身の主催するダンススタジオ「FABULOUS BUDDY BEAT」を運営するなど幅広く活動中。 結婚後、 特別養子縁組で授かった子どものパパとして育児を楽しむ。 2014年チャイルドマインダー取得。 2018年にandfamily株式会社を立ち上げ、 特別養子縁組の啓蒙活動を始める。
不妊治療の辛い日々を乗り越え、特別養子縁組で生後5日の子どもを迎えた、
元宝塚歌劇団月組トップスターの瀬奈じゅんさんと千田真司さんご夫婦の、葛藤と喜びの日々を綴った、ノンフィクション・エッセイ。
ヘア&メイク/松本未央(GON.) 取材・文/岩村優子 撮影/佐山裕子 構成/大隅優子(主婦の友社)
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