流産後のケアとこれからの妊活【中医学リプロダクティブヘルス】集中特訓#08
妊娠したい女性&カップルなら、ぜひ知っておくべき!漢方・中医学による妊活アプローチについて、「学び」を深める連載。妊活を始めたばかりの人も、なかなか妊娠しないと不安な人も、「読むだけ」で妊娠しやすい身体づくりをめざすことができる!そんな妊活の基本をまとめています。
教えてくださるのは中医学講師の張(ちょう) 立也(りつや)先生。『赤ちゃんが欲しい(あかほし)』編集部とともに、さぁ、授かりに向けて学びのトビラを開きましょう。
第8回のテーマは「流産後の心と身体のケア」について。医療機関で確認された妊娠の約15%が流産になるとされていて 、流産を経験する人は決して少なくありません。しかし妊娠を望むご夫婦にとって、流産はとてもつらく悲しい体験です。今回は流産のあとの体調のととのえ方や、次の妊娠をめざすときについてお話ししていきます。
▼これまでの集中特訓はこちら
#01 妊娠したいならまず「体質タイプ」を学ぼう
#02 漢方のベーシック妊活「周期調節法」について知りたい
#03 基礎体温で身体を知ることが妊活の第一歩
#04 月経とうまくつきあって、妊娠できる体質に!
#05 いい「おりもの」は、妊娠可能なサイン
#06 月経痛&PMS(月経前症候群)とじょうずにつきあう
#07 2人目がほしいと思ったら
流産とは
流産は、「胎児が生存可能な状態に発育する前に妊娠が中断されること」です。医学的には、妊娠22週未満で妊娠が終わることをすべて「流産」としています。妊娠22週以降から妊娠36週までは「早産」としています。22週までは、赤ちゃんがお母さんのおなかから出ては生存が困難というのが一般的ですが、それ以降なら生存できる可能性があるからです。
どの時期に起こった流産も、人工妊娠中絶以外は、すべて「自然流産」といいます。
自然流産は妊娠の約15%に起こるとされていて、そのうち妊娠12週未満の「早期流産」が約8割を占めています。
早期流産の原因は、赤ちゃんの染色体異常が最も多い
早期流産のほとんどの原因は、赤ちゃん(受精卵)の染色体異常によると考えられています。つまり、妊娠はしても、そのあと育つことのできない受精卵が自然淘汰されたということです。
なぜ、染色体異常が起こるかといえば、卵子に異常がある場合、精子に異常がある場合、また精子と卵子自体には問題がなくても、受精時や受精後の分割の際に問題が起きて、受精卵に異常が生じるなどのさまざまなケースがあります。女性の年齢が上がると流産率が高くなることはよく知られていて、これは卵子の老化により、染色体異常が起こりやすくなるためと考えられています。
こうした受精卵の染色体異常は偶然に起こることなので、お母さんが十分行動に気をつけていても、残念ながら、流産を防ぐことはできないのです。
化学流産とは
体外受精などの不妊治療を受けるかたがふえているため、妊娠のごく初期にhCGというホルモンの値を測って、それが陽性の場合には妊娠(着床)したと判断されることが多くなりました。
しかし、妊娠は、その後妊娠5~6週に超音波検査をして、赤ちゃんの入っている袋(胎嚢)が見えることで、初めて確定となります。hCGが陽性でも、胎嚢確認ができない場合を「化学流産」(正式には生化学的妊娠)と呼びます。
現在日本ではいろいろな議論がされていますが、化学流産は流産にはカウントされません。自覚症状も特になく、その後は月経と同じような出血があるのがふつうで、hCG値を検査していなければ、気づかない女性も多いのです。
流産の種類について知っておこう
1・切迫流産
流産が始まろうとしている状態。流産には至っておらず、安静を保つことなどで、流産をくいとめられることも。
2・進行流産
出血が始まり、子宮内容物が外に出てきている状態。
3・不全流産
子宮内容が完全に排出されず、子宮内に妊卵の一部が残留している状態。出血や腹痛があり、除去手術を行うことが多い。
4・完全流産
妊娠子宮の内容が自然に、かつ完全に排出された状態。出血や腹痛は治まってくる。
5・稽留流産
胎芽あるいは胎児が子宮で死亡しているが、排出されず子宮内に停滞している状態。出血や腹痛などの自覚症状がなく、診察で初めて確認される。
6・感染流産
流産経過中に子宮内感染を起こして、発熱、膿性分泌物の排出が見られる状態。
7・習慣流産
連続して3回以上の自然流産をくり返した場合。2回の場合は反復流産という。5の稽留流産では、手術を受け、しっかり子宮内をきれいにしたほうがよく、薬の使用や経過を見るなどは、予想外に出血が長引く可能性があります。
中国の古典医学書に出てくる流産
余談ですが、昔の中国の婦人科医学書には、「胎漏(たいろう)」「胎動不安」「滑胎(かったい)」などの流産に関わる言葉があります。「胎漏」は出血はありますが腹痛はなく、「胎動不安」は出血と腹痛がある状態です。こう言うと「胎動不安」のほうが心配な状態のように思えますが、実は痛みのない「胎漏」のほうが流産に結びつきやすいと考えられています。
妊娠初期に一時的に出血したり、痛みがあることはめずらしくなく、赤ちゃんが「ここにいるよ」とアピールしているともいえます。いわば切迫流産の状態です。「胎漏」は自覚がないうちに「もれてしまう」ので、赤ちゃんを守ることがむずかしいのです。
「滑胎」は「すべりおちる」ことを意味していて、しばしば妊娠するけれど、流産をくり返す、「習慣流産」をさしています。
また、「小産(しょうさん)」という言葉もあり、女性自身に自覚のない化学流産も含めて、週数に関係なく、流産はすべて「小さいお産」と考えます。
流産後は、できれば3周期は子宮を休ませたい
流産したかたが次の妊娠を考えるタイミングですが、3カ月くらいは身体を整えて子宮を休ませたいものです。出血の量などにもよりますが、妊娠した時点から、赤ちゃんを育てるために、子宮にはさまざまな変化が起こっています。それが流産という結果になると、また一から排卵の準備をしなくてはなりません。いわば子宮も卵巣も波乱万丈の状態ですから、すぐに切り替えて、元のホルモン状態に戻るのはむずかしいのです。
不妊治療の病院だと、特に化学流産の場合などは、次周期ですぐに採卵というケースもあるようですが、私はあまり賛成できません。年齢のことなどでどうしても急ぎたいなら、せめて2回目の月経が来た周期から。できれば、さらにその次の周期まで待って、妊活を再開しましょう。「急がば回れ」ということわざのとおりです。
流産後に大事なのは、「気血の充実」と「腎」の働きをととのえること
流産もすべてが「小産(小さいお産)」ですから、流産後も、正期産で出産したのと同様に、身体をいたわって、無理をしないことがたいせつです。栄養のあるものを食べ、しっかりと睡眠をとり、身体を冷やさないなど、「産後養生」を心がけましょう。
赤ちゃんは、出産まで継続して子宮の中で育っていきます。そのために母体は「気血」を養うことが絶対的に必要です。中医学では「気載胎、血養胎」といいますが、「気」は身体の動きや機能を支えるエネルギーの源で、胎児を載せて安定させ、「血」は、母体内をめぐり、胎児に酸素や栄養を与え、養う役割を担っています。
また、中医学では妊娠のための環境はすべて「腎」が司ると考えます。「腎」を充実させることで、妊娠可能な状態にもっていくことができるのです。「腎」には「陰」と「陽」があり、イメージしやすく考えると、「腎陰」はもの、つまり卵子や受精卵、子宮内膜などをさします。「腎陽」は働きで、エストロゲンやhCGホルモンなどに働きかけて、その機能をアップさせます。
流産後は、まずは「腎陰」をしっかり補充し、その後に「腎陽」を補えば、相互に関係しあって、妊娠しやすい体質に変わっていきます。「補腎陰」と「補腎陽」をどのようなバランスで行っていくかは、それぞれのかたの状況にもよるので、漢方専門の薬局・薬店でよく相談して、自分に合う方法を提案してもらうといいでしょう。
▼「気血」や「腎」「陰陽」についてはこちらの記事も参考にしてください。
集中特訓#01【妊娠したいならまず「体質タイプ」を学ぼう】
集中特訓#02【漢方のベーシック妊活「周期調節法」について知りたい】
一度は妊娠できたことを前向きにとらえて
流産は女性にとって非常につらい体験です。「なぜ、うまくいかなかったのか」「何か自分の行動に問題があったのでは」などと考えて、自分を責めてしまうこともあるでしょう。周囲の人から「よくあることだから」「また、がんばればいいよ」などと励まされても、それがかえって心の傷やプレッシャーになることもあります。
ここはぜひ発想を切り替えて、流産したことは残念なことではなく、「一度は妊娠できた」ことを前向きにとらえてください。なかなか妊娠できなかった人なら、妊娠(着床)したという事実は、確実に体に影響を及ぼします。次の妊娠へのステップだと考えて、危機をチャンスに変えましょう。
こうした精神的なストレスの緩和も、「気血」を養うこと、「補腎」と並んで、妊娠しやすい体質になるために重要です。
夫のフォローがとてもたいせつ
流産の原因はわからないことが多いものですが、不妊の原因の半分が男性側にあるのと同じく、流産も女性だけの責任ではありません。流産したときにしっかり妻を支えてほしい。そうでなければ、女性は孤独になってしまいます。そのことを私は男性に強くお伝えしたいのです。
体調をととのえる必要があるのは、妻だけではないかもしれません。夫のほうこそ、仕事が忙しく、疲れやすかったり、ストレスをかかえていたりはしませんか? ご夫婦が赤ちゃんを望むなら、飲酒やタバコはひかえ、3食きちんと食べるなど、この機会に生活スタイルを見直しましょう。男性の体質改善を助ける漢方薬などもありますから、薬局などで相談してみてはいかがでしょうか。
流産は2人で向き合って、2人で乗り越えてください。
2回以上流産がつづいた場合は不育症検査を受けて
早期流産は、受精卵に問題があって育たなかったもので、自然淘汰と考えられます。それがたまたまつづくことはありえることとはいえ、やはり2回つづいて流産したら、受精卵ではなく、夫婦のどちらかに流産をくり返す原因が何かあるかもしれないので、不育症検査を受けましょう。
不育症は医学的にはっきりとした病態があるわけではなく、妊娠はしても流産や死産、新生児死亡などで、結果として子どもがもてない状態をいいます。
【不育症のおもな原因】
不育症の原因はさまざまで、検査をしても原因がわからないケースも多くあります。また原因があっても必ず流産するとは限らないため、原因とは言わず、「リスク因子」という言い方をすることがあります。
●子宮形態異常
中隔子宮や双角子宮など、先天的に子宮の形に問題がある場合と、子宮筋腫など子宮に疾患がある場合があります。
●血液凝固異常
血液を固めて血を止める働きに異常があり、血栓ができて、胎児に栄養が運ばれなくなります。中でも、抗リン脂質抗体症候群がよく知られています。
●夫婦染色体異常
夫婦どちらかの染色体の構造に異常がある場合、卵子や精子にも染色体異常が起こる可能性があります。
●内分泌異常
甲状腺機能異常や糖尿病があると、流産のリスクがあると考えられています。
検査の結果、何かしらの「リスク因子」がある場合は、それぞれに対応した治療を行います。原因がはっきりしなくても、次の妊娠で赤ちゃんが得られる可能性は決して低くありません。主治医とよく相談して、妊娠にトライしましょう。
「気血」の充実と「補腎」、ストレス緩和が3大ポイント
流産したあとは、子宮やホルモンの状態も、すぐには元通りになりません。まずはあせらず、心身を回復させることをいちばんに考えて。そして妻だけでなく、夫もともにこれまでの生活を見直して、気血を養い、腎の働きを高めましょう。
流産という体験を悪いことと考えず、むしろ一度妊娠できたことを前向きにとらえて、2人で協力して次の妊娠に向かってください。
取材・文/山岡京子
中医学講師。中国・遼寧中医薬大学卒業。同大学に医師、大学講師として勤務。1996年に来日し、埼玉医科大学にて医学博士号取得。日本中医薬研究会講師。不妊カウンセラー。著書に『中医非薬物療法の基礎と臨床』など。やさしくも的確なアドバイスにファン多数。
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