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卵子を増やせる時代がやってくる!英科学誌ネイチャーが選ぶ2023年の「今年の10人」に選ばれた大阪大学・林教授の画期的な研究に不妊治療界が注目

2023/12/31 公開
2024/01/10 更新

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2023年11月に大阪で開かれた世界体外受精会議で、将来の生殖補助医療に大きく影響を与える可能性を秘めた驚くべき研究が発表されました。

大阪大学大学院医学系研究科の林克彦教授の研究チームが、雄のマウスのiPS細胞から卵子を作り、別の雄のマウスの精子と授精させ、子どものマウスを誕生させることに成功したというのです。

この論文はイギリスのロンドンで開かれた第3回ヒトゲノ編集国際サミットでも発表され、イギリスの科学誌「ネイチャー」615号に掲載。ネイチャーが選ぶ2023年の「今年の10人」にも日本人で唯一の選出。世界中の不妊治療専門医からこの研究に注目が集まっています。

お話を聞いたのは

大阪大学 大学院医学系研究科
生殖遺伝学教室 教授
林 克彦 先生

明治大学農学部農学科卒業。東京理科大学生命科学研究所助手、大阪府立母子保健総合医療センター研究所研究員、ケンブリッジ大学ガードン研究所博士研究員をへて、京都大学医学研究科准教授、九州大学医学研究院教授を歴任。理学博士。

大阪大学の関連サイトはこちら

雄の細胞から卵子を作り出した!?

編集部 「雄のiPS細胞から卵子を作り出す」というのは、私たちにとってはあまりにも驚きで、想像がつかないのですが、なぜそのようなことが実現できたのかわかりやすく教えてください

林 先生 もともと生殖細胞(卵子)は、赤ちゃんのころから女性の体にあるのですが、それを採りだして研究に用いることは難しいことです。ですので、iPS細胞やes細胞から、卵子を作ろうと考えたのが、第一段階です。

ご存じのとおり、男性にはX染色体が1本、Y染色体が1本あり(XY)、女性にはX染色体が2本(XX)あります。Y染色体が加齢に伴って消える場合があることが既にわかっていましたので、それを利用して研究をすすめました。

編集部 今回のご研究の中で、林先生が一番のターニングポイントとなったと感じるのはどのあたりですか?

林 先生 男性の染色体から、女性の染色体を構築できたときです。つまり、X染色体1本だけになった細胞を培養し、X染色体を2本に複製したところが、最初の大きな成果でした。そこまでたどり着けば、その後、卵子を作ることができると予想はできていました…。

編集部 iPS細胞を用いた卵子と、別の雄の精子とを受精させて、実際に何匹のマウスが誕生したのでしょうか?

林 先生 受精卵630個から7匹のマウスが誕生し、いずれも生殖能力があり、特に問題なく成長しました。

「実際に人に応用できたら…」不妊治療専門医も関心

編集部 今回の発表について、不妊治療専門医からどのような反応がありましたか?

林 先生 まずは、「すごい技術ですね」と驚かれました。ただ、まだマウスを使った基礎研究の段階ですので、「これからが楽しみですね」というご意見が多かったです。

編集部 先日、HORACグランフロント大阪クリニック院長の森本義晴先生にお会いしたのですが、林教授の研究が「今後の不妊治療を変える可能性がある」とお話されていました。

林 先生 森本先生をはじめ臨床医の先生方から、「実際に人に応用できたら、素晴らしい」と言っていただいて、とても嬉しく思います。

編集部 一般の方からの反応はいかがでしょうか?

林 先生 一般の方のほうが、よりインパクトが強かったようで、さまざまな反応がありましたね。とくに海外からの反応は強くて、「私の細胞を研究にぜひ使ってください」とメールをいただいたり、「日本に行くので相談させてください」などのコメントが寄せられました。



林先生の研究室は、万博公園にほど近い大阪大学吹田キャンパス内に

「卵子は増やせない」が、「増やせる」に

編集部 今回のご研究が、人へ応用されるとしてもまだ少し先のことだと思われますが、今後、治療にはどのように活用されることが予想されますか?

林 先生 確実に言えることとしては、卵子ができる過程を観察できるようになるので、例えば、卵子がない女性の場合、どういう理由でできないのかをくわしく調べることが可能になるでしょう。原因がわかれば、体外培養によって、卵子を増やすこともできるようになると思います。

編集部 もともと、女性の体の中にある卵子は、胎児の時点でその数が決まっていて、増えないと聞きます。ですが、この技術が進歩して、卵子を増やせるとなれば、ほんとうに画期的なことですね! 授かりにくいカップルにとっては朗報です。

林 先生 いまお話したのは、私の研究を「調べる」ことに使う段階のことで、治療に「使う」段階になるのは、もっと研究が進んでからになると思います。そして、もちろん、安全性と倫理面が担保されることが、なによりたいせつですが。


「大阪大学や九州大学など、学生を含めて約20名で研究しています。地味な世界です(笑)」(林 先生)

関連記事:卵子の数は増やせないってホント?妊娠するために知っておきたい「卵巣の老化」と「生理」のおハナシ

欧米では卵巣の凍結が一般的です

編集部 少し話が変わりますが、林先生は海外に行かれることも多いと聞きますが、海外と日本の治療とで、なにか差を感じることはありますか

林 先生 そうですね、とくに海外との差を感じるのは「がん生殖医療」の分野です。最近では日本でも若い女性ががん治療のためや、将来のために、卵子凍結されるケースが増えていますが、海外では卵巣の凍結保存をするかたが急増しています。海外での技術はかなり進んでいますね。

この件に関して、日本では聖マリアンナ医科大学の鈴木直教授がご専門で、日本でもようやく凍結した卵巣を利用した女性が2023年に出産したと聞いています。

編集部 「卵巣を凍結した」という体験談は、実際に私もまだ聞いたことがありません。まだまだ日本ではレアケースだと思いますが、今後、卵子凍結と同じように一般化していくことが予想されますね

人によって卵子の質になぜ違いがあるのか

編集部 では、最後の質問になりますが、先生が長年にわたるご研究を通して、「人の体」や「卵子」の持つ力に驚かれるのはどのようなことですか?

林 先生 人間の体の中は、ほんとうに精巧にできていて、日々驚かされます。ある意味、芸術ですね。私たちはふだん、卵子や受精卵を体外培養していて、できる限り生体に近づけようと努力していますが、生体のようにできたことは一度もありません。真似よう、真似ようとして10年が経ちます。いいものどころか、同等のものさえ作ることができません。わかっていない要因がまだまだあって、未知すぎて太刀打ちできないというのが正直なところです。


「誰にもじゃまされず、時間を気にせず、顕微鏡をのぞいているときが一番幸せです。」(林先生)

また、卵子自体もまだまだ未知の部分があって、卵子の“質”というのは、とても不規則です。年齢でははかれないところがあります。なぜそんなに質に違いがあるのかは、残念ながら解明されていません。

ですが、近年、さまざまな解析技術が進み、AIも含めて、多方面で、体のさまざまな組織や卵子の仕組にアプローチできるようになりました。生体へ一歩ずつですが、近づいている…と思っています。

林先生の論文はこちらから読めます

関連サイト:ネイチャーズ10(2023年に科学の形成に貢献した10人)

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