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不妊治療・妊活のクリニック探し・情報収集ならあかほし 体験談 〈柔道家・杉本美香さんの妊活〉現役時代は生理の話もタブー。厳しい世界で生きてきた私が不妊治療を経験して思うこと【後編】

〈柔道家・杉本美香さんの妊活〉現役時代は生理の話もタブー。厳しい世界で生きてきた私が不妊治療を経験して思うこと【後編】

2025/08/25 公開
杉本美香さん

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2023年に第1子を出産した柔道家・杉本美香さん。厳しい柔道の世界で女性指導者として多忙を極めるなか、不妊治療に取り組みました。当時の葛藤や不妊治療のお話を全2回に渡ってお届けするインタビュー。

後編は、杉本流・治療の乗り切り方や夫婦関係のこと、さらには柔道界の後輩たちへの思いについて。不妊治療を自身の経験として終わらせることなく、人のために、社会のために──。そんな杉本さんの熱い思いをたっぷりお届けします。

インタビュー前編を読む>>「重量級の私は妊娠する価値なし!?」厳しい現実を目の当たりにして【前編】

「何事も楽しくやろう!」精神で取り組んだ不妊治療の日々

不妊治療を振り返って大変だったことは、実は正直そこまでなかったかもしれません。もちろん、あったにはあったんですよ、いつまで続くかわからない採卵とか。でも、私は全てのできごとを「楽しくやろう」というタイプなので、総じてポジティブに取り組めたと思います。

例えば、採卵に向けての自己注射。決まった時間に行わなければいけない苦労はありましたが、そこまで精神的に苦痛ではありませんでした。夫の前で「絶対に見んといてやー」って言いながら目の前で注射したりして(笑)。

採卵については、あるとき、卵子が7個もできたことがあり、そのときはドクターから「さすがに今回は麻酔をさせてください」と言われました。でも私はドクターに、「私は痛みにめちゃくちゃ強いんで、麻酔なしでお願いします!」と懇願したんです。だって、麻酔が切れたとき、この大きな体を誰がベッドに運ぶんですか?華奢な看護師さんが大変そうに私を抱えている姿を想像したら、これは麻酔ナシを選択するしかない!と。

そんなふうに、私の不妊治療の日々には常に笑いが寄り添っていたような気がします。

不妊治療を終えてから増した、夫への感謝の思い

我が家は必要な検査などの際は夫とクリニックに一緒に行くスタイルで、その他は全て私ひとりで。でも、決して夫が非協力的だったわけではありません。むしろ、今振り返ってみると、夫には感謝の気持ちが増すばかりです。

不妊治療中は、女性の自分ばかりが頑張っていると、つい思ってしまいがちですよね。私もそういう部分はありました。でも、夫は夫なりに真剣に考えてくれていたことを、のちに知るわけなのです。

当時、夫はやけにクルミをよく食べていたんです。「この人、そんなにクルミ好きだったの?」と思うほど食べていて。なのに、私が妊娠したらピタリと食べなくなって。話を聞いたら、クルミはオメガ3脂肪酸や葉酸、ビタミンEが含まれ、妊活によいと知って積極的に摂取していたと。

また、睡眠に関しても、いつも23時までに寝ることを死守していた夫。毎日「あ〜、早く寝なきゃ‼」とひとりで慌てているんですよ。そんな夫に「なんでそんなに早寝なんだよ!」とツッコんだことも。でも、これも妊活のためだったのだと、後にわかりました。

ちなみに、不妊治療中、私は一喜一憂することが多かったのですが、夫はいつも平常心。私は夫婦で泣いたり、喜んだり、一緒にジェットコースターのような日々を共有したかったのに、なぜだかいつも私ひとりでそれを経験している感じでした。だから、夫に文句を言ったこともあります。

でも、今思うと常に冷静で穏やかな夫だったからこそ、私も悲観的にならずにポジティブに取り組めたのかな、と。

実をいうと、監督時代はストレスが多く、イライラして夫に八つ当たりすることもあったんです。だからこそ、これから時間をかけて、夫には恩返しをしていかなきゃと思っています。

杉本美香さん
計画帝王切開で出産した娘。山あり谷ありを乗り越えた私たち夫婦の元にやってきた天使!

柔道界で自分にできることは?

柔道界は、今は改善の途にあるかもしれませんが、私の現役時代は、生理の話すらタブーのような雰囲気でした。指導者とそういった話をすることは皆無と言ってもいいくらいでした。私が監督をしていたときも未だそんな感じ。まだまだ男性社会の部分が強いところが多いので、生理、ましてや妊活や不妊治療にはどうしても理解が進んでいない現状があると思います。

そんな状況だからこそ、女性監督を務めていたとき、私は指導する選手たちに「自分自身がいつか子どもが欲しいなら、今からできることを大切にしてほしい」と伝えるようにしましたし、できる限りのサポートに努めていました。

また、私がインスタグラムで「♯不妊治療」とハッシュタグをつけたら、「私も(不妊治療)やっています!」という連絡を想像以上にたくさんいただいたんです。柔道仲間からは、「妊活をしている自分の後輩を美香さんに繋いでいいですか?」と言われたことも。

柔道界ではまだ妊活や不妊治療のことを公に話す人はほとんどいませんでした。偉そうなことを言うつもりは全くありませんが、私が公言したことが少なからず一石を投じたのかもしれません。

とにかく、こんなにも不妊に悩んでいる仲間がいるのかと、自分が当事者になり情報を発信したことで初めて知りました。同時に後輩たちには、「まだ結婚に興味がなくても、卵子凍結という選択肢も考えてみたら?」と声をかけることもあります。

選手は引退後に続く人生を考えた選択をしてほしい

現役時代って、「試合で勝ちたい!」という思いが一番強いんですよね。そのことは私も十分すぎるほどよくわかりますし、1日でも練習を休んだらライバルと差がついてしまうと焦ってしまう気持ちも、痛いほどわかります。でも、「あなたたちの人生は引退後も続くんだよ」と言いたいです。

生理中は靭帯が緩み、怪我をしやすくなるんですよね。だから、薬を使って生理を1年、2年、3年と長期間止める女性選手もいるんです。でも、本人は将来的に子どもが欲しい。それゆえ、メンタルが崩れていってしまうなんてこともあります。

だからこそ、せめて生理不順はもちろん、それによる体調不良のときは当然ながら、すぐに病院に行くよう言葉をかけたい。そして、女性としての選択肢が増えるように伝えていくことは、女性監督を経験した私だからこそできることかなと思っています。

杉本美香さん
2歳になった娘。ママになれた喜びを噛みしめるたびに、不妊治療をあきらめなくて良かった!と感じます。

柔道の枠を超えて、妊活を頑張る女性の役に立ちたい

実は、柔道とは関係のない親しい友人で不妊治療をすごく頑張っている子がいたんです。その子からいろんな話を聞いていたことが、自然と知識として頭に入っていました。このことが自分自身の不妊治療に役立った部分が大きいので、経験者がきちんと言葉を発してくれると、周りの人たちも他人事から自分事として捉えられるようになりやすいのではないかと感じました。だからこそ、私もこれから実体験をお話ししていきたいなと思います。

私は元来の性格もあり、自分だけでなく、いつも「他の人はどうかな?楽しくやっているかな?」と周囲のみんなのことが気になるんですよね。今まさに不妊に悩んでいる人がいたら、その人が少しでもリラックスして、前向きな気持ちで妊活ができる“心のよりどころ”のような存在でありたいです。

これからは、柔道はもちろん、妊活や不妊治療への理解を深めてもらえるような活動もしていきたいと考えています。

前編インタビューを読む>>「重量級の私は妊娠する価値なし!?」厳しい現実を目の当たりにして【前編】

PROFILE杉本美香(すぎもとみか)さん
杉本美香さん
1984年生まれ、兵庫県伊丹市出身。小学5年生で柔道と出会う。すぐに頭角を現すと、中学・高校で全国制覇を果たすなど、将来を期待される選手へと成長。2010年には東京世界選手権78kg超級と無差別で金メダル、2012年のロンドンオリンピックでは銀メダルを獲得。引退後はコマツ柔道部のコーチ・監督を経て、後進の育成・普及活動や柔道を通じて子どもたちのココロとカラダを育む“ええやんプロジェクト”を発足するなど、社会課題の解決にも取り組む。
Instagram @mika__sugimoto

取材・文/濱田恵理

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