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体外受精・顕微授精で悩んでいる方のために/不妊の根本原因と自分達でできる不妊対策<生活習慣について>

2023/11/20 公開

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執筆者:ウィメンズクリニック院長 神野正雄 先生

私は体外受精・顕微授精が大好きです。1983年に体外受精を開始して以来40年間、その素晴らしい有効性と科学的な特性に絶えず魅了され、臨床と研究に邁進して参りました。好きこそ物の上手なれで、今では不妊治療がとても上手になりました。私が人生を捧げて頑張ってきた生殖補助医療(ART:体外受精・顕微授精などの総称)は、本来は、極めて有効な治療法です。

ところが全世界のART成績の報告を見てみると、何と日本は、年間採卵術数は世界75か国中第一位(231,030件/年)でありながら、採卵術あたりの累積出産率は第68位(日本:20.0%、第1位の国:51.8%)と、驚愕の状況です※1

日本は技術大国と信じていた私は、大変ショックを受けました。同時に、この統計から、日本の多くの患者さんがARTで挫折し悩んでいると考えました。

そこで本稿では、主として“体外受精・顕微授精で悩んでいる方のために”、さらには、より多くの“不妊で悩んでいる方のために”、大切な不妊克服の極意を解説したいと思います(表1)。ARTの有効性をフルに引き出すためには、ARTを行う側のみならず患者さん側にも多くの重要なポイントがあるからです。7項目にわけて解説していきます。

【第1章】不妊の根本原因と自分達でできる不妊対策

<<(1)年齢についてを読む

(2)生活習慣について

不妊の根本原因は不健康です。全例そうとは言いませんが、ほとんどの症例にあてはまります。こんなことは大学で教わりませんでしたが、たくさん不妊治療をしているうちに25年前ごろから悟りました。以来、健康になる指導をすると、軽症な方はそれだけですぐ妊娠するのを多く経験しました。

不健康は、医学的に言うと、インスリン抵抗性(インスリンがよく作用しない状態)です。その詳細は【第2章】糖代謝の重要性 で述べます。
生物には2大命題があります(表2)。

個体保存:生きること、生殖:子供を作ること、の2つです。当然、生きることが最優先ですから、生物の体調が悪く(不健康に)なると、生きる機能に十分なエネルギーを供給するため、生きるのに関係しない生殖機能を省エネします。そのため不妊が起きます。

しかし、さらに不健康が進むと、生きる機能も保てなくなり、病気・死が訪れます。人口の約20%の人で、健康度が不妊発症レベル以下にあり、不妊症が起き、さらに下がると病気となると考えます(図2)。

遺伝的素因に加齢と悪い生活習慣が加わると、インスリンの効きが悪くなります(インスリン抵抗性;図3)。インスリン抵抗性は万病のもとで、広義のインスリン抵抗性症候群を起こします。

インスリン抵抗性症候群とは、いわゆる生活習慣病のことで、糖尿病、高血圧、脂肪肝、高脂血症、肥満、痛風、 動脈硬化、うつ病、心筋梗塞、脳卒中、癌、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など多くの病気を包含します。私の経験では、男性不妊の多くもこれに属します。

インスリン抵抗性症候群は氷山にたとえられます(図 4)。

インスリン抵抗性がどの臓器に起こるかで、臓器の機能障害から生じる症状が異なるため、異なる病名となりますが、病状が進めば多くの臓器にインスリン抵抗性が起きるようになり、多くの病名を同時に持つことになります。さらに重要なことは、まだ明らかな病状を表に出していない初期の潜伏している人が遥かに多く存在することです。

診断はつかないが、なぜか調子が悪い、なんとなく子供ができないという人達です。これらの潜伏する軽症例は、これから説明する生活習慣の是正だけで妊娠に至ることも多々あります。より重症例も、生活習慣の是正とともに医学的治療をすることで、妊娠率を遥かに増加することができます。

不妊克服の要は、健康になることです。健康とは、インスリンが良く効く状態です。インスリン抵抗性は図3で示したように遺伝、年齢、悪い生活習慣でおきますが、遺伝も年齢も変えることができませんので、皆さんがすべきは良い生活習慣を徹底的に実行することです。良い生活習慣を下記にまとめます。

⚫歩く:毎日、連続 45〜60分、昼間に
毎日45分以上の連続した歩行をしてください。分割では効きませんので連続して45分以上歩いてください。朝が一番いいです。光の刺激で16時間後にメラトニンという眠気を催すホルモンが脳から分泌され、夜の睡眠が改善されるからです。

朝がどうしても無理な人は、少なくとも昼間に歩きましょう。ほとんど歩かない生活をしていた人は、最初の日は10分から始め、毎日数分ずつ長くしていき、徐々に45分以上の連続歩行にもっていきます。急にすると関節や靭帯を壊すことがあるからです。

またウォーキング用の靴を履きましょう。若くて余力のある方は、45分歩行になれたら、体幹、上肢の筋トレも加えてください。強い力よりは軽い負荷で多い回数する方が健康促進には有効です。また歩行中に“2~3分早歩きそして普通歩行に戻す”ということを5回繰り返すのも有効です。あるいは坂道を2~3回上り下りするコースを選ぶのも効果的です。

⚫体重の適正化:BMI = 体重 (kg) /身長 (m)2を19~25に
適正な体重になるよう食事量を頑張って調節してください。BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m) を計算し、19~25 (できれば23) を目指します。肥満だけでなく、BMI 18.5以下の痩せでも不妊が起きます。体重コントロールを成功させるためには、毎日体重を測り、必ず目に見えるところに記録し(私はカレンダーに記録してます)、現実を直視することが重要です。

⚫楽しく:ストレス対策、仕事量、人間関係
happyでいること。脳は体を支配しており、脳が病めば体も病みます。精神科の研究で、恐怖や不快な映像を15分間見たA群と、楽しいや幸福な映像を15分間見たB群とで、インスリン感受性を比較すると、たった15分でインスリン感受性がA群では低下し、B群では上昇していました。

ストレス対策は重要ですが、インスリン感受性が下がるのを防げたとしても、上昇はできません。インスリン感受性をアップするためには、笑わなければならないのです。幸せな気持ちでいるよう努力しましょう。

しかし現実の生活では、嫌なことのほうが多いと思いますが、便利なことに脳は思い込みで機能を変える習性があります。朝起きたら、鏡に向かって自分に笑いかけましょう。笑うまねをするだけでいいです。すると脳は楽しいモードに舵を取り、インスリン感受性が上昇します。不妊で悩めて来たら、“悩むと益々不妊になる”と思い出してください。

楽しさや幸せは、創意・工夫と努力で得るものです。例えば道路で100円拾ったとします。ある人は、「あと10円多く拾えば自販機で水が飲めたのに」と考え、一日中不快で過ごします。でもある人は、「10円足すだけで水が飲める」と一日中楽しい気分にいます。事実は同一で“100円拾っただけ”ですが、考え方で不幸にも楽しくもなります。

不妊で悩んで人生を浪費してはいけないと思います。子作りは重要かもしれませんが、人生の本当の目的は生きることです。素晴らしい生は一度限りで、人間皆いつか死ぬ時がきます。不妊で悩んでいる間も時は止まらず、あなたの素晴らしい人生の今は過ぎていくのです。その時できることで、人生を楽しみながら、片手間で不妊と戦うぐらいに考えましょう。あなたが悩むより、不妊の専門医が考えたほうが遥かに良い結果を生みます。優秀な専門医を見つけて悩みは任せ、あなたは好きなことを楽しむのです。あなたが全力ですべきは、7項目の生活習慣改善です。

⚫早寝・早起き、良く寝る:23時前就寝、7~8時間睡眠
早寝(夜22~23時までに寝る)、早起き(朝6~7時には起きる)で、7~8時間寝ること。睡眠はとても大切なものです。睡眠は疲れをとるだけでなく、昼間使った体の修理もしています。この修理をするには、神経系やホルモンによる命令が必要です。

我々霊長類は夜行性でないため、本来眠る夜に修理の命令が出て、朝には働けの命令に変わります。この日内リズムに合わせて睡眠をとらないと、上手に体が修復されず、それが続くと病気になるのです。遅寝は、たいていの場合、仕事から帰る時間が遅いためです。22時に寝るためには、19時に帰宅しなければ、継続できません。そのため会社との交渉が必要となり、軋轢を生じることもあり得ます。

最終的には何かを諦めないとできないかもしれません。仕事、出世、昇給、などなど。しかし早寝早起きをしないと、不妊の次には不健康、病気が襲ってきますから、結局は良い仕事もできなくなることに気づきましょう

⚫飲酒の間隔をあける:3日以上
飲みたくない人は飲まなくていいです。飲酒が好きな人は、一回飲んだら3日間全く飲まないでください。毎日飲むと、たとえコップ一杯のビールでもインスリン抵抗性が起きます。いつも飲酒する時刻の30分前ぐらいに、500 mlの炭酸水を飲むと、一気に飲酒の欲求が抑えられます。

そしてあとはお茶などを飲んで21時頃を過ぎれば、もう飲みたくなくなります。それでも欲求が抑えられないときは早く寝るのです。朝には禁酒できた達成感と睡眠の改善を実感できます。

⚫禁煙:0でないとだめ
たばこは一本も吸ってはいけません。たばこは体の活性酸素を増やし、DNAを傷つけ、老化と発癌を促進します。男性が喫煙し、女性が全く喫煙しなくても、精子のDNA損傷を介して、子どもの発癌が増加します。女性が喫煙すれば子どもへの影響はさらに深刻です。他人の煙を吸っても、直接喫煙とほぼ同等の害があります。夫婦ともたばこは一本も吸ってはいけません。

⚫よい食事:新鮮、偏らず、3回/日、ちゃんと作る
フレッシュな食材を使って、昔ながらに普通に調理し、栄養バランスの良い食事を、1日3回食べてください。保存食、レトルト食品、インスタント、外食弁当、ファストフードなどを多用してはいけません。保存食などにはAGE (終末糖化産物、老化物質で、第2章で詳述します)がより多く、食べたAGEは72時間後に2/3が体内に残留するため、AGEレベルが増加しインスリン抵抗性症候群が悪化します。

また、砂糖などの単純糖を食べると、急速に血糖が上昇し、食後高血糖を起こす人がいます。この短期間の高血糖でもAGEが形成され、それが日々蓄積すればやはりインスリン抵抗性症候群が悪化します。砂糖をなるべく使わないでください。とくに、糖の入った清涼飲料水は飲んではいけません。お茶か水を飲みましょう。食事はよく噛んで時間をかけてたべること。炭水化物は野菜と一緒に食べること。

この7項目は全て同等に重要で、相互に増強効果を及ぼしあいますので、全てを実行してください。生活習慣の改善はたいへん重要で、聞けば納得できると思います。

しかし持続して実行するのは、決して容易ではありません。それはあなたの今の生活習慣は、今までのあなたの生活に都合がよくできているからです。でもそれを続ければ不妊が続くわけで、あなたがたの望みを叶えるためにはどうしても改善する必要があります。

重要なコツは、心底悟ること、必ず毎日すること(土日も祝日も正月も、病気の時のみ休憩を)、測定し記録すること、必要なら何かを諦めること、です。

第一章の要点を表4に示します。若いうちに子どもを作ること。健康的な生活習慣で良い卵子、精子にすること。そして早めに不妊専門医に相談することです。

【参考文献】
1. Chambers G, Dyer S, Zegers-Hochschild F, de Mouzon J, Ishihara O, Banker M, Mansour R+, Kupka, M, Adamson G.D. International Committee for Monitoring Assisted Reproductive Technology: World Report on Assisted Reproductive Technology, 2014. Human Reproduction, Vol.00, No.0, pp. 1–12, 2021, doi:10.1093/humrep/deab198
2. Menken J, Trussell J, Jarsen U. Age and infertility. Science. 1986;233:1389-94.
3. CECOS Federation, Schwartz D, Mayaux MJ. Female fecundity as a function of age: results of artificial insemination in 2193 nulliparous women with azoospermic husbands. N Engl J Med. 1982;306:404-6.
4. 2021年ARTデータブック.
https://www.jsog.or.jp/activity/art/2021_JSOG-ART.pptx
5. FIVNAT, Piette C, de Mouzon J, Bachelot A, Spira A. In-vitro fertilization: influence of women’s age on pregnancy rates. Hum Reprod. 1990;5:56-9.
6. FIVNAT. French national IVF registry: analysis of 1986 to 1990 data. Fertil Steril. 1993;59:587-95.
7. Gosden RG. Maternal age: a major factor affecting the prospects and outcome of pregnancy. Ann NY Acad Sci. 1985;442:45-57.
8. Meldrum DR. Female reproductive aging: ovarian and uterine factors. Fertil Steril. 1993;59:1-5.
9. Navot D, Bergh PA, Williams MA, Garrisi GJ, Guzman I, Sandler B, Grunfeld L. Poor oocyte quality rather than implantation failure as a cause of age-related decline in female fertility. Lancet. 1991;337;1375-77.
10. Nikolaou D, Templeton A. Early ovarian ageing: a hypothesis. Detection and clinical relevance. Hum Reprod. 2003;18:1137-9.
11. Jinno M, Nagai R, Takeuchi M, Watanabe A, Teruya K, Sugawa H, Hatakeyama N, Jinno Y. Trapa bispinosa Roxb. extract lowers advanced glycation end-products and increases live births in older patients with assisted reproductive technology: a randomized controlled trial. Reprod Biol Endocrinol. 2021;19:149. https://doi.org/10.1186/s12958-021-00832-y.

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執筆
執筆

ウィメンズクリニック神野 院長。1980年 慶應義塾大学医学部卒業、同産婦人科入局。1983年 慶應義塾大学大学院入学、体外受精を開始。同年、京都大学農学部に国内留学、体外受精の基礎を学ぶ。1984~86年 荻窪病院産婦人科に出向、体外受精に従事。1985年 日本最初の体外受精による双胎妊娠に成功。1986~88年 米国Eastern Virginia Medical Schoolに留学、卵成熟の研究。1988~91年 慶應義塾大学病院で体外受精に従事。1989年 慶應義塾大学大学院卒業、同産婦人科助手。1990年 Charles Thibault Honorary Lectureship賞を受賞 (卵体外成熟)1991〜2004年 杏林大学医学部産婦人科で講師そして准教授として体外受精・顕微授精。1993年 顕微授精を開始、妊娠に成功。1997年 無精子症に精巣精子採取術 (TESE) を開始、妊娠に成功。1998年 世界体外受精会議記念賞を受賞(子宮内膜組織血流量による子宮着床能評価)。2002年 ウィメンズクリニック神野を開院。2011年 世界体外受精会議記念賞を再び受賞(終末糖化産物低下による新しい卵巣機能治療戦略)。2018年 ウィメンズクリニック神野 生殖医療センターを新設、現在に至る。2022年 世界体外受精会議記念賞を3回目受賞(顕微授精の細胞内液様培養液開発とそれによる胚発育能促進)

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